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【αγάπη (agape)】①
《第二週 水曜日 朝》
炊飯器の炊きあがりの時間に合わせて少し早くアラームをかけてたので、その音で目が覚めて下に降りたら、兄が絵を描く部屋で行き倒れのようなスタイルで地べたに寝ているのを発見した。
こういうことは初めてではなかったので、別に驚きはしないけど、心配で一応近寄って呼吸しているかだけ確認した。
これで7時半過ぎても起きなかったらわたしも仕事遅刻しちゃうし、今日はどうするか決めてもらって連絡させないと。
一応いつもどおりお弁当を作って、シャワーを浴びて着替えたり身支度を整えて、仕事に行く支度を進める。
朝ごはんを食べる7時になって、声をかけてみたが、全く起きない。本当に全く、うんともすんとも言わない。これはもう今日はダメかもしれない…。
仕方がないのでとりあえず家を出て、出社後、自宅にかけて、兄の携帯にかけて、応答がないのを確認してから緊急連絡先として教えてもらっていた先生の携帯電話の番号にかけてみた。
こんな時間に申し訳ないな、もう授業中だったり、或いは出勤途中かもしれないし出ないかも、と思っていたら存外すぐに応答があった。
「はい、藤川です」
「あ、おはようございます、わたし、小曽川南の妹で優明と申します」
あれ、返事がない。
「すみません、掛け直しますか」
「いや、大丈夫、続けて」
いい大人が家族から勤怠連絡させるなんて普通無いし、驚いたのかも。
「あの、兄が、今朝起きたら部屋で倒れてて、声かけたけど動かないので、今日行けないかもしれないので一旦ご連絡しました」
「わかった、休みでいいよ寝かせてやって」
「倒れてて」と言った瞬間、ちょっと「ふふっ」と笑ってるのが聞こえて安心した。
「でも、本当に申し訳有りません」
「いいよ、気にしなくて。きみしっかりしてるね。これから仕事?」
電話の向こうから小さくチャイムの音がする。
「はい、そろそろ席確保して準備します。うちフリーアドレスなので、便利のいいとこか気に入った場所がとれないとちょっと悔しいから早めに来てます」
「そう、仕事は楽しい?」
最初の淡々とした厳しそうな口調が、いつの間にかやさしくなっていた。
「楽しいです、ずっと希望してたポジションにやっとなれたので」
「そっか、今日一日がんばろうね、じゃあね」
そう言うと、通話は切れた。
こんなお兄ちゃんでも気にせず雇ってて、こんなすんなり休ませてくれるなんて。
しかも連絡してきただけの家族にこんなふうに言ってくれるなんて、ちょっと嬉しいし、この人と働いている兄が羨ましい。
そう思っていた。
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