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【1993/12 Can you kill me】①

《第2週 水曜日 夜》 初めて会ったのは18になって間もなく。未成年にはなるのだろうが、一般には成人とほぼ同じ扱い、一応そういう仕事が許される歳になっていた。親元も離れていたし特に何も問題はなかったが、しかし身バレすると厄介なので年齢や学校を偽って(当時はまだ住民票や身分証までは確認されなかったので)男性向け性風俗でアルバイトしていた。そしてその店は所謂SMクラブだった。 ある日バイト先に到着すると、おれを指名希望の客がいるが、先方の要望があまりにも特殊だったので予約を保留している案件があると店長に言われたが、おれはM専門で基本NGなしで通していたので勿論構わないと答え、その予約は確定された。 予定の時間に指定されたホテルに行くと、如何にもカタギではない厳ついむくつけき大男が待ち構えていた。名前を片岡と言った。一体どんな目に遭わされるのだろうと思っていたら、有名店のケーキを出し、温かい紅茶を淹れ丁寧に挨拶してもてなされ、改まった態度で折り入って相談したいことがあると持ちかけられた。 その人は、自分は指定暴力団の二次団体の偉い人の下働きをしていて、奥方の指示でその偉い人の慰み者になってくれる若い男を探していると言った。その偉い人というのが厄介なご趣味の持ち主で、拘束したり罵ったりにとどまらず、殴る蹴るから嘔吐や排泄の強制を容認できるようなマゾヒスト、しかもできるだけ若く幼く、小柄で華奢なタイプがご所望なのだと。そしてカネは言い値で出すと。 但し勿論本物の未成年には手は出せない。なかなか見つからず、こうやって手下のものが情報を集めて手分けして探し回っては、直接交渉して回っているのだという。そしてその偉い人と奥方はビジネス上のつながりで結婚したので恋愛感情も性的関係もなく、どちらも同性愛者で、既に偉い人は一人気に入った若い男を部屋に住まわせており、奥方も自分の店に働きに来た家出少女を住まわせているという。 当然このことは絶対に外部に口外されてはいけない、守秘を誓える人間にしか頼めない、色んな所から目をつけられるリスクもあるとその人は言った。おれは専攻している分野的にも性格的にも秘密を守ることに苦はないので全く構わなかった。何に目をつけられたとて、今のところは困るようなことはない。消されるかもしれないならそれでもいい。捕まったりしたら親が弁護士なりカネなりどうにかするだろう。 承諾すると、その人は些か慄き「本当によろしいんですか」と二度訊いた。おれは改めて「全く構わないです」と答えた。互いの電話番号を交換し、後日詳細が決まり次第連絡をもらうことにして、おれは出されたケーキと紅茶をいただいてから部屋を出た。その後、親に与えられている高輪のマンションに帰り着く頃には留守電にメッセージが残っており、再来週の日曜に帝国ホテルで会うことになった。 本来であれば、こういう店外で会う約束をするというのはご法度だ。しかし何せ言い値である。しかも時間単位で料金を貰い、その半分から6割バックとかではなく、全額自分の取り分だ。さまざまなリスクが絡むおそれを含むとはいえど、悪い条件とは思えない。そして通常のプレイではしないことを要求される可能性があり、何をされるかわからない。うまくいけば死ねるかも、という期待が心のなかにあった。 何せ、相手はカタギじゃない。それも口外できないような関係だ。もし仮にプレイ中、相手が興に乗りすぎておれが殺されたり、事故的に死んだとしても、跡形もなくなるよう処分する手立てくらいはしてくれるだろう。まさに、おれの本当の望みが、自分を強く罰してほしいという欲望が、ひっそりと誰にも知られず消えたいという願望が、おれ自身が手を下すことなく叶う。こんな素晴らしいことはそうそうない。

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