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【1989/05 komm tanz mit mir】⑩

どうすることが正解なのかわからなかった。 行為のあと体を洗い、風呂場を片付けて使ったものを洗って掃除して、体を拭いてからアキくんの部屋で気怠い感覚に包まれた体を寄せ合って少し眠った。目が覚めてから洗面所に服や使ったものを取りに行って、アキくんに服を着せてから、自分も着直した。 乱れた髪を洗面台にあった櫛を借りてきて梳かしていると、アキくんが「ハルくん、おこってる?」と小さい声で、おずおずと訊いた。 「別に怒ってはいないけど…お父さんともお風呂のときこういうことしてるの?」 アキくんはおれに問い質されると首を左右に振った。流石にそれはなかった、安堵のため息が漏れる。 「じゃあなんでおれにはしたの」 アキくんは少し下を向いて、何処ともなく一点を見つめて黙っている。暫くして、おれの方を振り返って喉の渇きを訴えたので、手を引いてリビングダイニングに向かった。 教材は置きっぱなしになっていたテレビ前のテーブルの傍らに先に座っていると、キッチンから冷蔵庫に冷やしてある麦茶が入ったガラスのピッチャーとコップを2つとってアキくんがきた。 麦茶を注いでおれに差し出してアキくんは「あのね、ごめんね」と言った。手が少し震えている。自分から誘ったとはいえ、実際にしてしまった事実が怖いんだろうか。いけないことをしたという認識はあるんだな。 「謝らなくていいよ、どうしておれを誘ったの?」 「だれにも言えなかったけど、ずっとしてみたくてひとりでしてたけど、ほんとにするならハルくんがいいと思ったの」 「その、おれが良かった理由はなんなの?」 アキくんは自分のコップに麦茶を注いて、余程喉が渇いていたのか半分ほど一気に飲んで、息をついてから言った。 「ハルくんといて、ともだちがいるって、たのしいなって、はじめて思ったの」 ともだちとは? そういうことって、友達じゃなくて、もっと特別な関係ですることじゃないの? でも、他の誰かにそういう感情を抱いたことがないから正直おれもよくわからない。友達だってアキくんと出会うまで久しく居なかった。 「そっか、でも、おれとしたこと、誰にも話しちゃだめだし、他の人にこういうことしちゃだめだよ。悪い人に傷つけられるかもしれないから」 そう言うと、アキくんは頷いた。 「はじめてがハルくんでよかった、あのね、ともだちになってくれてありがと、だいすき」 そう言うとおれにギュッと抱きついた。 「ハルくんといるとね、きょうだいがいたらこんな感じだったのかなあって、おもうんだ」 いや、きょうだいでもこんなことはしないよ?とは思いつつ、それよりもそのきょうだいが居たらって発想は何処から来たんだろう。 「アキくん、ひとりっこじゃないの?」 「あのね、アキくんほんとならきょうだいがいたんだって、お父さん言ってた。でも、アキくんみんな忘れちゃったから…」 そういえば、アキくん、結構な比率で「わすれちゃった」って言うことが多い。 「みんなって?何を忘れたの?」 「わかんないの、でも、あのね、みーんな忘れちゃったんだって」 そう言うと、アキくんは少し目にかかっている前髪を指でそっと分けて搔き上げた。額のやや左側、髪の毛の生え際から数センチ上のところから、眉に少しかかるところまで赤黒く瘢痕化した大きな傷があり、それに沿って縫合した際の白い点状の傷が並んでいる。 「おでこのこれも、体の傷もなんの傷なのか、アキくんわかんないの」

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