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【2020/05 埋火】⑦

《第3週 木曜日 夜》 いろんな事が一気に起きすぎていて、頭の中がまるで休まらない。 ジムに来たのは、体の使い方に意識を集中して動かすことで一旦クールダウンしないとどうにかなりそうだったからだ。 競技をやっている時は頭も使うし、周囲の気配なんかも予想したり察知して動くから、本当に余計なことを考える余裕がなくてよかったのだけど、もうおれは取り組めるような団体競技はやっていない。 好意や感情を圧し殺して金を払って解消するか、ジムで鈍った体を動かすかくらいしかない。 前者の手段はは今はもう取り得ない、おれは好意を諦めるのをやめて、先生のことだけ考えている。となれば、自然とジムに流れるほかない。 十分ストレッチしたあとトレッドミルに乗り、流れを決めてマシンでサーキットトレーニングを数周、その後泳ぐ。ふと思い出してその瞬間に怪我や損傷があってはいけないので耳栓で周囲の音を遮断した。 スマートフォンはロッカーに仕舞い、終わって此処を出るまでは一切見ないと決めた。閉館が近くなりプールでスタッフの人に声をかけられるまで、おれはずっと時計も極力見ずに取り組んでいた。正直やりすぎて、かなり消耗していた。 ややふらつく足取りでシャワーブースに向かい、これ以上消耗するのはまずいと思い、やや高い温度で軽く流して着替えて外に出た。普段だったら徒歩でなんとでもなる距離がやけに遠く感じる。 ガードレールに腰掛けて、水分補給しながらスマートフォンを取り出すと、通知がそれなりに入っていた。その中に勿論、藤川先生や大石先生、小曽川さん、飯野さんと見落としてはダメそうな相手からのものが含まれている。でもまだ今は見る気になれなかった。 中途半端に飲料の残ったペットボトルとともに鞄に仕舞って、再び歩く。戻ったら直ぐ寝落ちそうだ。返信できなくても、本体充電するは忘れないようにしないと。 長谷のトーク画面に、いつまでも既読がつかない。 多分知っただろうな、今回の件に絡んでおれに関する噂あれこれを。タダでさえおれのこと、事件のこと知りたがって嗅ぎ回ってたくらいだし。事件の詳細やアレな裏稼業を知ったら関わらないほうがいいってなるよな、仕方がない。 明日は直接あいつは署に行くみたいだし、おれはおれで呼び出しだし。多分おれは遅かれ早かれ追及されてクビになるだろうし、あいつも本来の業務に戻される可能性は高いよな。もう会えないかもな。 今日は何か、さっきからずっと今までに感じたことがない痛みが肩と胸の間を突き刺した。おまけに喉の奥が何か詰まったように苦しい。さすがにバタバタしてストレスフルすぎたから疲れてるのかも。 嫌だな、こんな、自分がしでかしたことでストレスで潰れるとか、バカみたいじゃないか。 そしてこんな時に限って、というかそもそもふみの親の出所に絡んで抗争が起きかかっているせいで、直人さんにもふみにも会えない。ユカちゃんも来ない。週末はハルくんも会えないから、気を紛らわす手段は作っておかないと。 かといって、まったく知らない相手と今更面倒なことになりたくない。 おれは年単位で連絡していない、とある相手の仕事用の携帯電話の番号を出して、ショートメッセージを送る。 「先輩、お久しぶりです。藤川です。お時間があるときでいいので連絡ください。面倒なことになってきたので万が一に備えて相談したいです。」 送信して間もなく、返信があった。 「おかえり とりあえず会ってくれるって捉えてええの」 「報酬は言い値で出します。おれのこと先輩の好きにしていいですから。」

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