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【2020/05 速度と密度】④

なーんて…散々振り回して傷つけておいて言うことじゃないか。 てか一目惚れして待ち伏せとか変に度胸あるし、人に懐くの早いよな、寂しいのかな。 最初はおれのことエロいと思っただけっぽかったし、おれがちょっかい出しても耐えてたのに、いつの間にかプライバシー暴いて入り込んで来るし、後追ってついてくるし、ハルくんとメシったり、お母さんとこ来たりするし。 実の両親がもう居ない、会えないって点も響いてるのかな。おれもそうだけど、でも、おれ一応はその後家族になった人も居るし、娘も居るし、ハルくんや南はきょうだいみたいなもんだからなあ。全然比較できない。 友達の陰が全然見えないのだって、おれも友達って言える人間は居ないけど、付き合いの長い人間はそれなりにいる。長谷はそういう交際相手もいなそうだし、そういうふうに見えないけど風俗頼ってるっぽいし。 長谷は多分もうかなりおれのこと色々と知っているのに、おれは長谷のことなんにもわからないままだ。一緒に暮らすうちに何か見えてくるんだろうか。 考えてるうちにゲームに集中できなくなって、途中でやめてソファの上で横になった。 通路と部屋を仕切る扉の向こうから、普段ならしない他の人間の気配がする。浴室からうっすらとシャワーの水音が聞こえてくる。なんとなくそれが心地よくて、おれは間もなく眠りに落ちた。 次に目が覚めると、すぐ目の前にパイル地に覆われた広い背中があって、自分と同じ洗浄料を使った香りを放っていた。照明を落として暗くした部屋に音を消したテレビだけが煌々と光っている。 スポーツチャンネルの画面を真剣に観ているのを邪魔しないように横顔を肩越しに見ていると、目を覚ましたことに気づいたのか、ゆっくりとこちらを振り返った。 覆いかぶさるようにおれを抱きしめて、額や頬にキスする。 「いつ風呂上がったの」 「十五分前ですよ」 おれが体を起こしてソファに座り直すと、一旦立ち上がってその横に腰を下ろし、自分の腿を手でぽんぽん叩いて此処に座れと促してきた。身を返して長谷の脚の上に向かい合わせになるように座ると、腰を抱き寄せておれの頭を撫でながら肩に寄せた。 耳元で小さく笑うのが聞こえる。 「何笑ってんの?」 画面の中でなにか面白いことが起きたのかと思って振り返ると、その背後から続けて言う。 「さっき先生、おなか出て恥ずかしいって言ったじゃないですか。風呂入ってたらそれ思い出して、先生には申し訳ないけどかわいいなって思っちゃったんです。で、」 そこでまた再び長谷が笑う。 「で、何?」 「…先生の唯一のスタンプ、そういやたぬきだったなって思って…そしたら面白くなってきちゃって…フフフ…あのたぬき先生なのかなって思ったらもうだめで…起きたら絶対これ話そうと思ってたんですよ」 コ、コイツ、人の心配も知らずに…。 衝動的に両手で頬を挟み打ちすると、声を出して笑いながらおれの両手を掴んだ。そのまま思い切り抱き寄せてホールドされて手出しできない。 「ごめんなさい、だっておなか出て恥ずかしいなんて言うから~」 「おれだってメシ食う時くらいあるよ、なんなんだよお」 厚い筋肉に埋もれていた顔を上げて言い返すと、鼻先にキスして、長谷は如何にも人懐っこい笑顔で微笑んだ。そしてまるでさっきのことは忘れたかのように、おれの唇を塞いで、舌で抉じ開けた。

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