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【2020/05 深度と濃度Ⅱ】⑦ (*)

多分、おれはおれで気が動転しているし、動揺している。 事件以前、先生がどのように育られて、その身に何が起きたのかも、その後どのように生きてきたのかも、これまで見聞きして概要としてはある程度知った。でも、「何も考えられないようにしてくれ」とまで言わしめる何かを見た先生に、直接問い質すのは怖い。 過去を探ることを「墓を暴くつもりでやれ」とまで言う人に直接、さっき何が起きたのか。再生されたのはそれまでの中のどの記憶なのか。そこで何を見たのか訊くのは怖い。けど、それは先生に直接訊くしかない。でも、いつ、どうやって。薄くてやや乾いた感触の膚に唇を這わせていながらも、おれは行為に集中することができないでいた。 先生の背後に手を伸ばしてあるシャワーヘッドを外し、そのシャワーヘッドを握ったまま手の甲で押下して栓を緩める。床材の上に細かな飛沫を散らしながら水面が広がり、やがて水温が上がり薄っすらと蒸気が漂い始めた。 十分温度が上がったのを確認して先生の背中にシャワーの水流を向けると、目を閉じて自分の体に這う粘膜の感触を感触を愉しんでいた先生の瞼が開いた。その目を少し細めて微笑んで先生が言う。 「ほんと、長谷はいい子だな」 おれの肩に絡みついていた腕を解いて、手を耳の上の側頭部の柔らかいところに添えて、軽く指を立てて擽るように撫でる。先生は、おれはそこが弱いというのをもう存分に知っている。指が掠めるたび背筋までその刺激が広がり、おれが身震いして声を漏らすのを先生は満足げに見上げ、手でおれの顔を引き寄せて啄むように一度口付けた。 先生の手が棚に伸び、保湿成分入りのボディソープのボトルと泡立てるためのバスリリーを取った。浴槽の縁に置いてポンプを押してバスリリーに含ませると、自分の背に向けられてるシャワーの水流に当ててから泡立て始めた。楽しそうに泡を立てているのを見てると、ちょっと子供みたいだ。 大石先生から聞いた、ご実家で一緒に暮らしていた頃、最初に浴室で先生とそういう事をしたときの話を思い出してしまう。大石先生もおそらく、こういう姿を幾度となく見ていただろう。そして、これからもおれに知られないようにするという配慮も特に無く、おれの知らないところで二人は逢瀬を重ねていくだろう。 でも、後から入り込んできたのはおれだし、その関係が先生に必要なことならおれは咎めることはできない。咎めたことで先生に投げ出される方がつらい。 「先生、いい子にしますから、おれのこと好きになってください」 懇願するおれを見上げて、先生は不思議そうな顔をした。そしてそれがまた、おれを誂うときのちょっと意地悪そうな顔に変わる。 「長谷はさあ、本当におれがカラダ目当てでお前を同居に誘ったと思ってる?」 バスリリーから泡を搾り取っておれの体に塗り拡げ、指を滑らせて胸の先の小さな突起とその周囲をなぞる。思わず声を漏らして先生を抱き寄せて身を竦めた。先生はおれに構わず、その指を脇腹に潜らせふたりの体の間で息づき始めている物に触れる。泡に塗れた手で先端を撫で擦りながら、小首を傾げてこちらを見上げて先生は笑う。 「それ、そういうこと、しながら訊くことじゃない…じゃないですか…」 情けなく零れ出そうになる喘ぎを堪えて切れ切れに答えるも、巧みにエラ下や鈴口を擽られて、先走りが止めどなく溢れて滴り落ちていくのがわかる。泡に紛れてはいるものの、自分でははっきりとその感覚はわかってしまう。与えられた刺激と羞恥で体温が上がっていくのも、口の中や目が潤むのもわかる。 先生はおれの反応を愉しみ、意地悪く微笑む。 「カラダ目当てで傍に置くにはリスキーすぎるでしょ」

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