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【2020/05 消失】⑦

再びスマートフォンの電源ボタンを押し、ロックを解除して先生が画面を操作する。ゲームを強制的に終了して、ブラウザでとある法律事務所のウェブサイトを出すとこちらに画面を向けた。 「これ、おれの先輩」 そこに表示されていたのは、初めて見る名前。なのに、その顔は明らかに見覚えのあるものだった。驚きのあまり、言葉が詰まる。 「え、先生、この人」 先生は呆然としているおれを見てニヤニヤしながら言う。 「似てるだろ、おれの実の親に」 似ているなんてもんじゃない。先生の実のお父さんに、そりゃ眼鏡のフレームの流行りとか、髪型や服装の流行りとかあるから多少の違いはあるものの、ほぼ瓜二つだし、年齢も多分同じくらいだ。 「この先輩に、なんかあったら来てくれって頼んであるんだ。LINEしとけば多分おれより先に学校に着くと思う」 そう言いながら、LINEのトーク画面を出して、先生はその先輩にメッセージを作成する。 「至急で今から仕事しに大学行きます。報道見ていると思いますが例の件です。警察が俺を呼べって言ったみたいなんで、聴取されるかもしれません」 さして間を置かずに返事が来る。 「そう思って待っとったで、構んよ。今から出るわ、ほな後で」 口頭で言うのと同じくそのままの調子で関西弁で書かれている。 「先輩、関西の方なんですね」 「うん、ほんと、こういう感じでしゃべるよ」 スマートフォンの画面を消してジャケットの内ポケットに仕舞うと、先生は「着くまでちょっと寝るから起こして」と言って目を閉じた。でもおれは訊いてみたいことがあった。 「先生、その…先輩とは…学部違うんですよね?どうやって知り合ったんですか?」 尋ねると先生は片目を開けて「食堂でナンパされた」と言ってまた目を閉じた。でもまだ、もうひとつ訊きたいことがあった。 「先輩とは、どういう関係だったんですか」 先輩だって言ってんのにどういう関係って言い方もおかしいだろと自分でも内心思いつつ、訊かずにいられなかった。先生はもう一度片目を開けて答える。 「おれが父親どういう気持ちで見てたか知ってるならわかるだろ」 「そ、それは、先生は、その先輩のこと、好き、ってことですか」 おれがおそるおそる聞き返すと、先生は両目を開けてパチクリさせてから、はは、と声に出して笑った。 「それはちょっと違うかなあ、せいぜいジェネリックお父さんってとこだよ」 お父さんの代わりとしてみているのだとしたら、やっぱりそれは、好きってことなのでは。てか、ジェネリック…後発品って…それはそれで失礼では。 先生は、おれのこと信じるって、好きだって言ってくれたけど、先生はその先輩も好きだし、大石先生のこともきっと好きだし、征谷さんのこともそれなりに好きだっただろうし、亡くなったお父さんのことだって、今のお父さんだって好きだったわけで、肉体関係のあるナシは関係なく、おそらく先生の「好き」の範囲と数、めちゃくちゃ多い。 だからってその事自体を責めるようなことを言うのも違う気がするし、じゃあおれは何人目で好きランキングの何番目ですかみたいなことを訊くのもなんか違う気がする。先生が同棲しても浮気はする的なこと言った時、「先生が必要とするならそれでもいい」とは思ったけど、でも、すごいモヤモヤする。なんだろう、この気持ち。 「じゃあ、ついでなんですけど、ふみさんも、先生友達だったわかんないって言ってましたけど、もしかして好きだったんですか」 腕組みをして目を閉じて、先生は考え込んだ。 「うーん、なんて言ったらいいんだろなあ…ふみはオヤジの…直人さんの下僕だからなあ、ある意味おれと立場は一緒だよ」

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