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【2020/05 潜伏】②

《第4週 水曜日 夜》 予定通りチェックアウト後タクシーで羽田に移動して、予約したホテルの部屋で保安検査まで充電しながらTVを観て過ごした。これから向かう被災地の状況を確認しておきたかった。避難は完了していて概ね水が引いてきてはいるが、瓦礫の撤去や行方不明者の捜索はまだ断続的に雨が続いているため難航しているようだ。 都内の四肢切断事件についてもやはりまだ操作が進行中のため現場からのレポートや鑑識活動の様子が流れていた。鑑識の一年目は撮影係だと聞いたことがあるのでカメラを構えている人間を目が追ってしまう。その中の何れかに長谷の姿がないか探したが、いなかった。諦めてTVを消して、保安検査よりやや早めにホテルを出る。 箱を手荷物を預けて保安検査を通過してから、現地で活動限界になったときに食べられそうな日持ちのしそうな菓子を何種類か買った。これまでの経験上、一度始まると深夜まで及ぶことも多い。普通は支給される食事はあるからそれでいいが、おれは食えないものが多いから賄っておかないともたない。 店を梯子してそれぞれで売っているセットの中で一番大きなものを選んだ。個包装だったら分けてあげられる。頭数もそこそこいるだろうから余ることはないだろう。大きな紙袋を二重にしてそこにまとめて詰めてもらった。空港には送迎が来るから手荷物の引取場所から車まで荷物運ぶのはカートを借りよう。 搭乗する前にスマートフォンを機内モードにするため取り出してみるが、やはり長谷の画面は全く動きがない。単に仕事しているだけなのに、心がざわつく。余程まずい状況にあるふみに対してはそんな風に思わなかったのに、直人さんにもそんなこと思っていなかったのに、頭の中で「もしこれが最後になったら」というどうしようもない妄想に支配される。 あの日出ていったお父さんが帰ってこなかったように、長谷の身に何か起きて帰ってこなかったら、或いは、おれが生きて戻れなかったら。おれは「まさかそんなこと、そう続くわけがないでしょ」と笑えない。その後、お母さんは殺されてしまったのだから。そして直人さんだって殺されてしまった。 いつだって深く愛したものほど突然に奪われてしまう。奪われてしまえばそこで終わり。それがおれの経験で、おれにとっての真実だ。だから特定の誰かに入れあげたり、期待したりということはしたくなかった。でも、長谷はなんとなく嫌じゃなくて、気を許してしまった。気を許した傍から、もう失うことが怖くなっている。 駄目だ、悪い方に考えすぎる。事件が起きて捜査中だからとはいえ勤務に入ってまる2日だ、さすがに向こうに着く頃には上がれていればいいけど、どうだろう。飯野さんは一週間帰れなかったと言ってたことがあった気がする。そう考えれば、おれが多少東京から離れたって問題はない。そう思っておくしかない。 スマートフォンを機内モードに切り替え、搭乗口へ向かう。数席しかないプレミアムシートの窓側の席に着くと、おれは離陸から降機するまでできるだけ窓の外の地上の灯りを無心で観察していた。こちらを出たときは只々夜景が美しかったのに、被災地に近づくほどに外は暗く、通り過ぎて空港に着くまでは揺れも続いた。 ふと、こういうとき一緒なのがハルくんだったら、宿に着いてから何も考えずめちゃくちゃに甘えていられるのになと一瞬思ったけど、自分の身勝手さに自己嫌悪が募るだけだった。

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