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【2020/05 葬列】⑮

「だけど、アキくんのことは、好きになってくれたんでしょう?」 そう言われて、おれは答えに窮した。 確かに先生のことは好きだと思う。どうしてあんなに最初の一日で唆られてしまったのか、どうしてあんなに知りたくてたまらなくなってしまったのか、自分でもわからない。他に説明がつかないからそうなんだとは思う。 実際他の人との関係を知る度に複雑な気持ちにはなったし、離れている今、先生に会いたい気持ちは着実に自分の中に募っているし、風俗頼ってしまったことに今までないひどい罪悪感を持ってしまったし。 でも、それが「好き」という気持ちなのかどうか、自信がない。 優しくしてくれる友達や好意を示してくれる子が現れる度に繰り返し繰り返し非難され、罰されて、その寄せられた思いに対する自分の気持ちを持てたことがないし、自分から何かや誰かを好きだと思えることがないまま生きてきてしまったから。 先生の家に最初に行ったとき、建物自体は特に新しいわけじゃないのに部屋の扉からもう他の部屋とは違ってて、中が広くて綺麗で、綺麗に飾り立ててあって、羨ましいな、こんなところに住みたいなとは思ったのは事実だし、その時「住めば?」と言われたのが嬉しかったのも事実だ。 その後遊んでる時邪魔してじゃれつかれて、そういう流れに持っていかれたとき「また誂われているのかな」と思わなかったわけでもないけど、でもなんとなく、今までとは違って、この人は自分にひどいことはしないという安心感と、自分は受け入れられているという幸せな気持ちがあった。 そして、此処を居場所にしてもいいと、他に関係を持っている人がいるのにおれに言ってくれたこと、選んでもらえたことが嬉しくてたまらなかった。睦言の最中の先生の「好き」も、その場限りの嘘でもいいと思ったくらいに。 でもそれらは全て先生から与えてくれたもので、おれ自身がはたらきかけて得たものじゃない。受動的なものだ。 「正直、今までそういうことがなかったのでわからないです。でも、他に説明がつかないので好きなんだと思います…」 迷った末絞り出すように言うと、先生のお母さんはおれに言った。 「懐かしいな、わたしもそうだった」 「そんなもんなんですか?」 おれが目を丸くしていると「案外そんなものじゃないかなあ」と微笑んでから席を立った。キッチンに向かい、新たに陶器のタンブラーを2つ出して冷凍庫にあった氷を入れ、浄水ポットの水を注いでこちらに運んで戻ってくる。 「わたしもなんとなく向こう…お父さんのこと気になって、知りたくて一生懸命くっついて回ってたけど自分でもわかんなかったもの」 おれの前に1つ、自分の側に1つ置いて、席についてから言った。 「でも、わかんなくてもなんとかなっちゃった。友達の延長とか、仲間って感じだけど」 「お母さんは、それでよかったんですか?」 「だって、今で言う推しだもの。推しが友達になってくれて、一緒に仕事しようって誘ったらいいよって言ってくれて、一緒に住んでなんでも協力してくれるなんてったらもう毎日幸せじゃない?」 推し…?推しなんだ…。推しで、友達の延長とか仲間?恋愛関係ではないってこと? 恋愛するということも具体的にどういうことなのかイメージ出来ないけど、恋愛関係を経ないまま結婚するということもうまくイメージできない。 そりゃ、結婚を契約して共同で生活を運営している事だと思えば、確かに仕事仲間だし、恋愛関係じゃなくてもいいんだろうけど…。 「でも、わたしの《好き》は長谷くんとはまた違う《好き》だとは思う。長谷くんには長谷くんの落とし所って徐々に見えてくると思うの。だから、アキくんとどうか気長に付き合ってあげてほしい。勝手なお願いだけど。…てか、心配というか問題はハルくんかもね」

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