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【2020/05 葬列】㉒
「片岡が金借りた連中のバックに●●会ついてたことも知らないって言う気か。…ダルマにされた連中のことも知らないって言い張ってるけど、アレお前らが敵対してる●●会の地方にある三次四次団体の幹部とかだぞ。それが都心の一等地であんな状態で」
「知らないですね。片岡、知らないで金借りてたんですかね、知ってて借りてたんですかね。正直おれのほうが気になりますよ」
実際には、うちの親とこれまでおれ名義で直人さんが遣り取りしてきた手紙や、うちの親が書いた時代小説に使用されている言葉にはたくさんの符号が決められていて、それらを通じて情報共有し、今後の有事の動きなどについては決められていた。
下に指示を出したのはおれだが、その際にもソレと分かる言葉、この業界でよく用いられる用語等は一切使用していない。しかも口頭で、おれが任されている会社のミーティングのひとつとして一回きり指示している。
「罪自体は認めても背後関係や指示内容は絶対に明かすな、取り調べやに耐えられない、或いは良心の呵責に耐えられなければ自害すればいい」と、うちの親が直人さんに言われていたことを明かした上で指示した。
監禁には7年以下の懲役、傷害で15年以下の懲役がつくがおそらくダルマ事件は最長で見込まれる。
なのでうちで出世したい、上位組織に上がりたいという野望や意志のある人間に指示した。勿論入所中の世話や戻った時のそれなりの席を確約し、それぞれに弁護士もつけてある。
片岡の件は間違いなく今の基準なら組織内の人間が直接手を出して一貫してやった場合無期だ。なので、分散させた。
まず片岡の関与がわかっていた時点で片岡に仕事に絡んで威迫されたり強請られて困窮した等の事情のある人間を処理の指示役に据えた。
処理そのものについては、おれ同様任されている会社のある人間に、真っ当に働く能力はあるがこのままだと食い詰めるかパクられそうな状況にある顧客、殊更家族と縁が薄いか関係が悪く、戻れる場所がない人間をピックアップさせて処理させた。戻ってきた時の住居や職の確保を条件にしてある。
遺棄についても、まずい商売していることがうちに睨まれて懐掴まれてる連中に操業中に処理させた。やってたまずい商売のことは勿論全部見なかったことにしてやるという条件になっている。
勿論指示する際には「罪自体は認めても背後関係や指示内容は絶対に明かすな、取り調べやに耐えられない、或いは良心の呵責に耐えられなければ自害すればいい」と念を押した。
教唆は7年以下の懲役で、しかも実際の裁判では実行した正犯よりも軽い刑になる傾向がある。遺体の損壊と遺棄は3年以下の懲役で所謂ションベン刑だ。
しかしおれは直人さんの残したジェリコを使って片岡の殺害を実行し、その後の処理も取りまとめていたのであって、誰かがカマかけられて引っかかったり自供したりして瓦解すればそんなもんじゃ済まない。
可能性は少なからずある。賭けだ。
その場合、死んだ人数が満たないから死刑にはならないが間違いなく無期だ、裁判するまでもない。だから瓦解した時点でおれは死ぬと決めている。
もし仮に無事切り抜けたとしても、組織の仕事に奥様やユカは何も関係ないからあの人達に会うことも今後ない。
これに限らず直人さんが死んだ時点で汎ゆる決め事が吹き飛んだ。玲の契約関係も消滅した。
二度と会わない。だからあの夜、玲に会いに行った。あれがもう最後だ。
殴ったのは、今更抱きしめて「お前を愛している、いつかオヤジの代わりに迎えに行く、だから待っていてくれ」なんて思ったところで、そんな柄じゃないこと言えないし、そもそもあいつがそんなもん守れやしないヤツだとわかっているからだ。
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