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【2020/05 葬列】㉓

おれの初恋は終わったのだ。だからもう考えないようにしたい。 でも、何かあった時の手札を玲が用意していたのでそうもいかない。その事自体には感謝しているが、この弁護士もアレの男だったと思うとモヤモヤした気持ちにならなくもない。 しかも、背格好も顔も声色も話し方も実の父親にそっくりとか、ファザコンにもほどがある。そんなの亡霊か悪い夢だと玲は思わなかったんだろうか。 寧ろそれを敢えて利用していたとのだとしたら、やはりあいつは只者じゃない。 最初面会した時から肝が妙に座ってる人間だとは思ったが、直人さんのことでさえいいように利用したり、突き放したり、約束ほっぽったりして、組織の人間や由美子さんまで困らせた。あんな食えないやつはそう居ない。 おれのことも犬扱いして顎で使ったり、かと思えばベタベタ甘えてきたり、激昂して無茶な命令してきたりで、正直ずっと惑わされっぱなしだった。 しかも契約前複数プレイや危険なプレイに手を出してたりしてたとかで、それが闇で商品として出回ってたのを直人さんに今後のキャリアを考えて手を回して回収隠滅させていた。 それなのに契約後も他所で行きずりで何処の馬の骨とも知らん男と寝たり、学校内でも仕事の行く先々でも男振り回してたり、兄弟同然のはずの自分ちの里子まで手を付けたりもして直人さんを裏切り続けた。常に男、男、男で本当にどうしようもないヤツだった。 直人さんは何故あんなやつを20年以上も手放すことなく、可愛がっていたんだろう。今となってはもうわからない。 プレイでひどく甚振る反面本当に可愛がって、ことの後中国語でよく「你很可愛啊」(Nǐ hěn kě'ài a)と、そして薀蓄を聞かされた後には「你很聡明啊」(Nǐ hěn cōngmíng a)と、手を握って小さい子に言い聞かせるように語りかけていた。 玲のことだけじゃない、ユカやおれのことも、どうして私邸に置いてくれたのか。同じように語りかけてくれていたのか。生い立ちが何もわからないので想像でしかないが、直人さんも実の親ではない誰かに育てられたんだろうかとは思っていた。でもそれも今となってはわからない。 おれが親がムショ行きになった後、預けられた祖父母の家から家出してきたときも、そのこと自体は何も咎めず受け入れてくれた。おれは楽器や機材でも何でも買い与えてもらったし、ユカにはとびきり可愛いものを着せたがった。役に立ちそうなことはいくらでも学習する機会をくれた。 最終的には組織に迎えてくれたが、おれがヤクザになると言ったときの直人さんは本当に恐ろしかった。言わなかったら、玲とのプレイに巻き込まれ行為を強要されることもなかったと思う。 おれはあの時から玲の言う通り直人さんの犬で、直人さんの仕事は全て把握できるよう求められ、必要なスキルを身につけ、成果を出して、貸せる限り名義を提供して、任されたフロントの管理から何からしながら身辺警護を続けてずっとついてきた。 それ自体に後悔はない。でもならなければ、玲に心奪われることも執着することも、腹を立てることもなかっただろう。 あと、うちの親はヤクザになったのは本意ではなかったから、おれにヤクザには絶対なるなと言っていた。おれはだから親に対してはフリーターとか社会人のふりをしてきた。出所してきた今になって、おれがどっぷりヤクザになっていた事実を知って失望と憤怒に震えているだろうと思うと申し訳ない。 でも逆に言うと後悔してるのはそれくらいだ。 切り抜けられさえすれば後のことはどうでもなるし、切り抜けられなければそこまでだ。覚悟はできている。 とりあえずこの日も、夜遅くまで取り調べはしつこく行われたものの特に進展なく終わった。

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