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【2020/05 葬列】㉔
《第4週 土曜日 夜》
参考人の取り調べというものはあくまでも任意であり、呼出しに応じる義務はない。応じた後は退去し帰宅できる。しかしおれらのような組織の関係者は参考人であってもなかなか帰してもらえないし、帰ったとしてもまたお迎えが来る。事実上連日取り調べを受けるのと変わりない。
しかも被疑者の場合には黙秘権の告知が義務付けられているのに対し、参考人には義務付けられていないという脆弱性がある。但し弁護士と面会もできるし、取り調べに同行し待機してもらい助言してもらうことができるから、終わるまでそれをフルに活用する。
おれは玲から以前紹介され名刺を貰っていた弁護士に連絡を取り、取調室前で待機してもらい、随時相談しながら取り調べに応じた。その男は元検事ということで、取り調べの中で違反にあたる行為があると容赦なくダメ出しをするので取り調べる側も慎重ににやるしかなく、非常にやりにくそうだった。
この日、最後にその弁護士が自宅まで車で送ってくれた。その前後をパトカーに誘導されてだし、おそらく帰宅後も見張られるし、どうせ明日も連れて行かれるんだと思うとうんざりだが、車中にいる間は少なくとも警察の人間に話を聞かれることはない。それだけで少し安堵した。
「弁護士ってのも大変だね、こんな遅くまで付き合わされて」
「はは、でもまあ、その分コレがええからね」
その須賀という男は柔和な顔で微笑みながら関西弁で言い、ハンドルの上に置いた手のその掌を上にして人差指と親指で円を作った。
乗っている車といい、着けている腕時計といい、ツヤ感のある生地の高そうなスーツといい、ものの言い方といい、弁護士というよりはそっちの商売の人みたいだ。
「正直、おれのこと、本当はあんたも疑ってるでしょ」
「ん?何がです?」
「…連続四肢切断事件と、片岡の件に決まってんだろ」
おれが言うと「でも、あなたがやってないと供述するなら、それを弁護するだけですわ」とほんの少しだけこちらを見て答えた。
カーナビが導くとおり台場を抜けて、車はレインボーブリッジを渡り、ループ橋を下りていく。
「そもそも、あんたも玲の何かしらなんでしょ」
「そりゃあ何かしらではあるでしょ、おかしなこと言わはる子やね。端的に言うと、大学の先輩後輩ですわ」
「本当にそれだけか?」
訝しむおれが面白いのか含み笑いしている。
「たまたまやけどね、おれはどういう訳やら、どうやら似てんですわ、あの子の本当のお父はんに。ほんで、それがご縁で身を固めるまで随分長くええ思いさしていただきましてん」
「ええ思いって、例えば」
「そんなん、皆まで言わんでもわかってはりますやろ。それ訊くのんは野暮ですて」
車はゆりかもめの線路の下を通る、首都高と並走する脇の道を更に下り浜離宮恩賜庭園のほうに方向転換する。間もなくおれが本来住む為に借りていた部屋のある建物が見えた。
殆ど直人さんのところに居るか自分の任されているフロントの何れかに居るかで、此処には正直住民登録して楽器を置いているだけだったから、ちゃんと寝泊まりするために変えるのは久しぶりだ。
「なんか、殆ど此処には実際住んでなかったから色々買ってこなきゃなんだけど、この辺のコンビニて、オフィスビル入ってるとこばっかで、夜って碌に開いてないんだよな」
そうボヤくと「ほな一旦なんか買ってから帰ります?」とウインカーのレバーに掛けたままおれの方を向いた。
「そうしてもらえたら助かるよ。開いてるコンビニは浜松町の向こうに行かなきゃないし、24時間やってるスーパーは汐留のシオサイトだし、微妙なんだ」
一旦ウインカーを点灯させて路肩に寄せて停めると「ちょっと待っとってな」と言って運転席を出て前後のパトカーにそれを伝えに行く。
やがて戻ってくると徐ろに「なんや、逃げてへんのかい」とおれを見て言った。
思わず吹き出すと、それを見て満足げに笑いながら「寄ってもええて、シオサイト。行くで」とシートベルトを締めた。
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