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第49話

 今日から部員は四人。新生園芸部の誕生だった。  白根を連れて、利休先輩は大葉先生に挨拶に行った  帰って来た先輩の顔はホクホクしてて蒸したてのサツマイモのようにおいしそうだ。  た、食べたいっ。  先輩は機嫌もよくいつもより言葉も多い。 「今度はなにを植えようか。白根くんがいるから、栽培の難しくない初心者向けのものを選んだほうがいいかな。季節からいったら大根が丁度いいんだけど。ねえ白根くんはなにが食べたい?好きなものを作ろうよ」 「大根がいいです」  やっぱり大根は大根が好きなのか。共食いか。  俺の視線を見てキャロットが腕をはたく。 「まったく君は」 「いや、つい」  俺の心の中ではすでに白根の名は大根となっていたのだ。  俺らのそんなやり取りは耳に入っていないのか、利休先輩と白根とで穏やかな会話がなされている。 「冬になったらおでんで食べようね。あとぶり大根もいいな」 「いいですね。鍋もいいですし」 「イカとか鶏肉とかと煮てもおいしいよ。長く保存するならピクルスもいいね」  食いしん坊の先輩がわくわくしているのが伝わって来た。 「楽しいなぁ」  つくづくといった風に先輩が言う。 「ずっと一人だったから、今の状況は夢みたいだよ」  うれしいな、うれしいな、うれしいなったらうれしいな。  少し節をつけて言う。 「那須くん、キャロットくん、大根くん、みんなありがとう」  あれ、いま確か大根くんって……。  白根も戸惑っている。 「あ、あ、ごめんね。なんか白根くんって割と色白だし、もっさりしてるのが大根みたいで……ねえ、あだな大根にしちゃだめ?」  白根は利休先輩に心酔している。無体な申し出でも断れるはずがない。 「は、はい。大根でお願いします」  いいのか大根で。 「よく考えてみたらみんな野菜の名前なんだね。園芸部に相応しいね」  今頃その点に気づいたのだろうか。ちょっととろすぎる?俺は複雑な顔で先輩を見た。  でもそこがかわいいのも事実なのだ。  聡い光を放つ黒い瞳。  至高の表情。  無垢で純粋な笑顔。  ふっくらとした頬。  ぽっちゃりした体躯。  まさにエンジェルだ。 「本当に幸せだなぁ」  心の底からのハッピーエンジェルスマイルが炸裂する。  その神々しさに俺たちはみんなやられてしまっているのだった。  End

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