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金糸雀(カナリア)4 side楓

「おーっ!楓の弁当、今日も旨そうっ!」 隣に座ってた春くんが、俺の弁当箱を覗き込んで歓声をあげた。 彼の名前は藤沢春海(ふじさわはるみ)。 生徒会副会長の彼は、日本の医薬品メーカーでもトップクラスの売り上げを誇る藤沢製薬の社長子息で、蓮くんとは赤ちゃんの頃からの幼なじみだって聞いた。 蓮くんと一緒に小学校に入学し、あまりの場違い感に蓮くんの影に小さくなって隠れていた俺に、優しく声をかけてくれたのが彼で。 それからずっと、αの二人に挟まれてどうしても縮こまってしまう俺を気遣ってくれて、時には俺の言いたいことを代弁してくれたりして。 その太陽のような明るさと、春風のような優しさで俺を包んでくれて。 俺があの家のなかでなんとかやっていけるのは、きっと春くんが傍にいてくれるからで。 俺にとっては、かけがえのない大切な友だちだ。 「楓の弁当って…うちのお手伝いさんが作ってるんだから、俺と龍のも同じなんだけど?」 「えー?でも、楓のだけ特別に美味しそうに見えるんだもん!」 「なんだそれ…」 「楓、その卵焼きと俺のハンバーグ、交換しない?」 「え?じゃあ、卵焼きあげるよ」 「ダメ!それじゃ、楓の分が少なくなっちゃうじゃん!」 「いいよ。俺、少なくても大丈夫だから。春くんは放課後、バスケ部で走り回るでしょ?」 「…なんでもいいから、早く会議始めない?昼休み、終わっちゃうけど」 俺たちのおかずの攻防に、冷静な声で割り込んできたのは成松和哉。 龍のクラスメートで、生徒会の会計担当。 めちゃくちゃ頭が良くて、中等部に入ってからずっと、学年トップを譲ったことがないらしい。 同じ学年で、龍が唯一敵わない相手だ。 だから、てっきりαなんだって思い込んでたんだけど、実はβなんだって。 俺の…というか、世間一般の常識では、αというのは全てにおいて優れた能力を有する上位種で。 βはαには絶対に敵わないんだと思ってた。 でも、αにだって負けないβもいるんだってこと、和哉に出会って初めて知って。 俺は、勉強もダメ、運動もダメ、出来ることといったら人よりは少しだけ上手にピアノを弾くことくらいの、βの中でも落ちこぼれだけど。 それでも努力すれば、いつか描いた夢にも届くんじゃないかって、そんな希望をくれる大切な存在が和哉だった。 そして、生徒会長の蓮くんと、書記の龍と。 無理やり蓮くんに副会長をやらされてる俺だけ、場違い感半端ないけど。 それでも、5人でわいわいやりながら生徒会を運営していくのは、そんなに嫌なことじゃない。 大好きな人たちに囲まれてる日々は、とても優しく愛おしく。 かけがえのないものだとわかってるから。 いつまでも続くと思っていた日常は ある日突然泡のように消えてしまうことを 俺は知ってるから… 「そうだな。じゃあ、さっさと始めるか」 蓮くんが、空気を切り替えるように椅子に座り直して。 さりげなく、自分の弁当箱に入ってた卵焼きを、俺の弁当箱に移した。 「あ…」 「それじゃ、議題は今日も来月の文化祭についてだけど…」 なにもなかったみたいに澄ました顔して、場を仕切りだしたのがなんだか可笑しくて。 自然と頬が緩んでしまった。

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