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金糸雀(カナリア)5 side楓

「で、ホールでの音楽科の演奏会だけど…楓、長野先生に使用許可取ってくれた?」 「あ…」 お腹いっぱいになると、眠気がじわじわと忍び寄ってきた。 それと戦いつつ、みんなが話し合いを進めるのを半分意識を手放しながら聞いてると、和哉に突然話を振られて。 びっくりして、目が覚めた。 ヤバイ… すっかり忘れてた… 「まさか…忘れてたわけじゃないよね?三回も言っといたはずだけど…?」 すぅっと、目が細められるのを見て、全身から冷や汗が吹き出す。 「あの…ごめ…」 「それは、俺の方でやっといた。楓、コンクールの練習で忙しかったし、そんな余裕はないと思ったからな」 謝ろうとしたら、蓮くんが俺を遮って。 さらりとそう言った。 「あ…ごめん…」 「いいんだよ。おまえは、ピアノのことだけ考えてればいい。煩わしいことは、全部俺が引き受けるから」 「でもさ…」 「出たよ。ほんっと、楓にだけは甘いよな~蓮は」 本当のお兄ちゃんみたいに優しい眼差しを俺に向ける蓮くんを、春くんが茶化すように笑う。 「だけ、って…別にそんなことは…」 「同じ弟なのに、俺には絶対そんなこと言わないじゃん」 それに乗っかって、龍がわざと拗ねた顔をする。 「…おまえはαだろ。なんでも自分で解決できて当然だ」 「ひっど!差別!セクハラっ!」 「おまえな…何がセクハラだ」 「こういうのも、性による差別なんだからセクハラだろ~?」 「…わかった。じゃあ、今度からおまえのことも甘やかすことにしよう」 「え…それはそれで、キモい…」 「おまえ、どっちなんだよ!」 蓮くんが怒った振りをすると、春くんと龍が声をたてて笑って。 和哉と俺のせいで、一瞬だけ流れたピリッとした雰囲気が、三人のおかげでふんわりと和んでいく。 「…ごめんね、和哉。今度から、もっとちゃんとするから」 みんなが俺をフォローしてくれてるのがわかって。 申し訳なさをひしひしと感じながら和哉に頭を下げると、和哉は大きく溜め息をついて、肩を竦めた。 「ま…仕方ないか。楓だもんね」 「…どういう意味…」 「まんまの意味だよ」 「そうそう!楓は、ぽやーんとここにいるだけでいいのっ!それだけで、空気が柔らかくなるんだからっ!」 「春海…それ、完全にディスってんだろ…」 「ええっ!?そんなことないよっ!」 春くんと龍の会話に、つい笑ってしまったら。 蓮くんの大きな手が、ふわりと髪を撫でた。 「蓮くん…?」 その瞳が、まっすぐに俺を見つめてて。 とくん、と。 心臓が小さく震えた音がした。 「約束したろ?おまえのことは、なにがあっても俺が守るって」 「う、ん…」 それは遠い過去の約束 父と離れ、泣いてばかりいた俺を まだ小さかった手で、ぎゅっと抱き締めてくれて 『大丈夫。ひとりじゃないよ。僕がずっと傍にいる。ずっと、楓のこと守っていくから』 そう言って その言葉通り、ずっと傍で俺を守ってくれている 「ありがと…」 その言葉はとてもとても嬉しいけど 最近ちょっと、苦しくもあるんだ 今はまだ無理だけど いつか俺も、君を支えたい そのためには何が出来るだろうってずっと考えてるんだけど 完璧すぎる君に、俺が出来ることなんてなんにもなくて ねぇ蓮くん… 俺はどうしたら大空を自由に羽ばたく君の傍へ行けるのかな…?

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