231 / 566

雲雀(ひばり)3 side蓮

抱き合って、涙が枯れるまで泣いた。 「…ごめん。取り乱して…」 ようやく涙が止まった頃、楓は俺の胸に顔を押し当てたまま、掠れた声で囁いた。 「いや…いいんだ…俺の方こそ、悪かった。おまえの気持ちも考えないで、突っ走ってしまって…」 俺は、そっと髪に触れるだけのキスを落とす。 楓からは、相変わらず濃いフェロモンが薫っていたが、さっきまでの我を忘れそうなくらいの興奮は、もうすっかり収まってしまっていた。 楓が他の誰かと番っていないとわかって 嬉しさのあまり我を忘れてしまった おまえがどんな想いを抱えて生きてきて 今日、俺の元へやってきたのかも考えず… 最初にフェロモンを感じなかったこと その腕からブレスレットが消えたこと 左腕に残る傷跡 離れていた12年間の全て 俺が知らなきゃいけないことが たくさんある だから今日は このままただ、抱き合っていよう まだ震えている身体を ずっと温めていてやろう 焦ることはない 楓の気持ちを知ることが出来たんだ もう二度と離さない 離れていた12年間は これから一生をかけて ゆっくりゆっくり取り戻していけばいい そう自分に言い聞かせながら、楓を抱き締めていると。 「…抱いて…くれないの…?」 もぞりと動いた楓は、腕のなかで顔を上げた。 真っ赤に泣き腫らした瞳の奥に、その清廉な天使のような佇まいに似つかわしくない、淫靡な色がちらりと見える。 「もう、嫌になった?こんな傷だらけで汚い俺のこと、抱く気になんてならない?」 「そんなことない!」 辛そうに顔を歪めるから、慌てて強く否定すると。 楓は、ほんの少しだけ嬉しそうに頬を緩めて。 掠めるようなキスをくれた。 「だったら、抱いて」 「でも…」 「…離れてた時間の分。俺のなか、蓮くんでいっぱいにして…」 甘い声で囁かれ。 甘い香りで抱き締められると。 一度は収まったはずの欲が、マグマのように溢れてくる。 「駄目だ、楓っ…」 「ねぇ、お願い。蓮くんを、俺にちょうだい?」 堪え性のない自分自身に舌打ちしながら、楓を引き離そうとするけど。 細い腕が。 梔子に似た、噎せ返るような豊潤な香りが。 絡み付き、見えない糸で俺を縛っていく。 「楓っ…」 「お願いっ…俺を愛しているなら、今すぐに抱いてっ…」 その、慟哭のような叫び声を聞いた瞬間。 なんとか塞き止めていた欲望の波が、俺の全部を飲み込んでいった。 「っ…くそっ!」 そんな自分に怒りを感じながら、抱き締めていた腕を解き、その薄い身体をシーツに強く縫い付ける。 見上げる楓が、嬉しそうに目を細めて。 「蓮くん、愛してる。愛してるから…蓮くんの思うままに、めちゃくちゃに抱いて…」 男を誘い慣れた、娼婦のような台詞を吐く唇を。 噛み付くように、塞いだ。

ともだちにシェアしよう!