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雲雀(ひばり)3 side蓮
抱き合って、涙が枯れるまで泣いた。
「…ごめん。取り乱して…」
ようやく涙が止まった頃、楓は俺の胸に顔を押し当てたまま、掠れた声で囁いた。
「いや…いいんだ…俺の方こそ、悪かった。おまえの気持ちも考えないで、突っ走ってしまって…」
俺は、そっと髪に触れるだけのキスを落とす。
楓からは、相変わらず濃いフェロモンが薫っていたが、さっきまでの我を忘れそうなくらいの興奮は、もうすっかり収まってしまっていた。
楓が他の誰かと番っていないとわかって
嬉しさのあまり我を忘れてしまった
おまえがどんな想いを抱えて生きてきて
今日、俺の元へやってきたのかも考えず…
最初にフェロモンを感じなかったこと
その腕からブレスレットが消えたこと
左腕に残る傷跡
離れていた12年間の全て
俺が知らなきゃいけないことが
たくさんある
だから今日は
このままただ、抱き合っていよう
まだ震えている身体を
ずっと温めていてやろう
焦ることはない
楓の気持ちを知ることが出来たんだ
もう二度と離さない
離れていた12年間は
これから一生をかけて
ゆっくりゆっくり取り戻していけばいい
そう自分に言い聞かせながら、楓を抱き締めていると。
「…抱いて…くれないの…?」
もぞりと動いた楓は、腕のなかで顔を上げた。
真っ赤に泣き腫らした瞳の奥に、その清廉な天使のような佇まいに似つかわしくない、淫靡な色がちらりと見える。
「もう、嫌になった?こんな傷だらけで汚い俺のこと、抱く気になんてならない?」
「そんなことない!」
辛そうに顔を歪めるから、慌てて強く否定すると。
楓は、ほんの少しだけ嬉しそうに頬を緩めて。
掠めるようなキスをくれた。
「だったら、抱いて」
「でも…」
「…離れてた時間の分。俺のなか、蓮くんでいっぱいにして…」
甘い声で囁かれ。
甘い香りで抱き締められると。
一度は収まったはずの欲が、マグマのように溢れてくる。
「駄目だ、楓っ…」
「ねぇ、お願い。蓮くんを、俺にちょうだい?」
堪え性のない自分自身に舌打ちしながら、楓を引き離そうとするけど。
細い腕が。
梔子に似た、噎せ返るような豊潤な香りが。
絡み付き、見えない糸で俺を縛っていく。
「楓っ…」
「お願いっ…俺を愛しているなら、今すぐに抱いてっ…」
その、慟哭のような叫び声を聞いた瞬間。
なんとか塞き止めていた欲望の波が、俺の全部を飲み込んでいった。
「っ…くそっ!」
そんな自分に怒りを感じながら、抱き締めていた腕を解き、その薄い身体をシーツに強く縫い付ける。
見上げる楓が、嬉しそうに目を細めて。
「蓮くん、愛してる。愛してるから…蓮くんの思うままに、めちゃくちゃに抱いて…」
男を誘い慣れた、娼婦のような台詞を吐く唇を。
噛み付くように、塞いだ。
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