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雲雀(ひばり)2 side蓮

本館のすぐ横に作られた番用の客室棟の空いている部屋の鍵をこっそり拝借し、その部屋へと楓を押し込んだ。 扉が閉まるのも待ちきれず、華奢な身体を壁に押し付けて、唇を重ねる。 「んっ…」 強引に唇を割って舌を差し込み、楓のそれを絡め取ると、甘やかな声が漏れて。 それだけで、身体の芯がカッと熱くなった。 「んんっ…蓮く…んっ…れんっ…」 キスの合間に俺を呼ぶ声に。 俺を縛るように包み込んでくる濃厚なフェロモンの香りに。 思考なんか吹き飛んでしまって。 目の前の愛おしい身体を貪ることしか、考えられなくなる。 「っ…楓、ベッド、行こう」 それでも、なけなしの理性をかき集め、大切な宝物へ触れる気持ちでそっと抱き上げると。 楓は小さく頷いて、俺の首に腕を回し。 自分から、唇を重ねてきた。 唾液まで奪い尽くすような濃厚なキスを続けながら、ベッドに倒れこむ。 その細い身体を組み敷き、唇を滑らせ、顎から首筋へと舌を這わすと。 ふるふると、小刻みに震えた。 首筋に沿って、何度もキスを落とし。 そのまま、項へと口づける。 「っあ…ゃっ…」 楓はびくっと大きく跳ね、また濃厚なフェロモンが部屋いっぱいに溢れだした。 「んんっ…んっ…」 何度もそこを舐めてやると、びくびくと感じてくれて。 「ん…ぁっ…は、ぁっ…」 片手で口を覆ったその隙間から零れ落ちる甘い吐息に、身体中の血が沸騰するような感覚が走る。 もう一度唇にキスをしながら、初夏なのにきっちり上まで止められたシャツのボタンを外し、素肌へと手を滑らせて。 指先に触れた、小さな胸の粒をきゅっと摘まんでやると。 「んぁぁっ…」 陸に打ち上げられた魚のように、跳ねた。 「んっ…あっ…だ、めっ…」 存在を主張するようにぷくりと膨らんだそれを、指先で捏ねるように転がしながら、シャツを脱がせる。 「…っ…やっ!待ってっ!」 左腕を抜こうとした瞬間、楓は急に目を見開いて、起き上がろうとした。 「やっ、だめっ…蓮くんっ…」 本気で逃れようとするのを無理やり押さえ付け、シャツを引き抜くと。 現れたのは、左腕に残る、無数の切り傷の跡。 「…楓…」 熱に浮かされていた頭が、一瞬にして醒めた。 これは…… 「…っ…ごめ…なさい…」 俺の不躾な視線から逃れるように、顔を横に向け。 ぎゅっと目を閉じる。 「ごめんなさい…ごめんなさい…」 閉じられた瞳から、また大粒の涙が落ちた。 「…謝らないでくれ…」 唇を寄せ、後から後から流れる雫をすくいとり。 壊れ物に触れるように、そっと抱き締める。 「ごめん、楓…ひとりにして、ごめん…」 なにも語らなくても この無数の傷がこの12年のおまえの苦しさを物語っている 自分自身を傷付けながら おまえはどんな気持ちで生きていたんだろう 運命の番といいながら おまえが一番苦しい時に側にいてやれなかった俺が 今さらどうやっておまえに償えばいいのか…… 「楓…ごめんな…ごめん…ごめん…」 「っ…蓮くんは、なにも悪くないっ…悪いのはっ…」 悪いのは 俺だ 「ごめんなさい…蓮くん…」 縋るように俺に抱きついてきた楓を、強く抱き寄せる。 「楓…ごめんな…」 「…ごめんなさい…」 12年分の哀しみを乗せた俺たちの涙が、真っ白いシーツに溶けていった。

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