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白鷺(しらさぎ)19 side蓮

「…あっつ…」 むわっと籠ったような暑さと、全身から吹き出す汗の不快感に目が覚めると、俺の服に包まれて幸せそうに眠る楓が、真っ先に目に飛び込んできた。 「ったく…本人がいるんだから、巣なんてもういらないじゃん…」 明け方まで激しく絡み合って。 疲れ果てて微睡みだした楓は、寝惚けながらも辺りに散らばった俺の服をまたかき集めて。 こんもりと出来上がった巣の中に俺を引っ張りこみ、しっかりと抱きつきながら、幸せそうな微笑みを浮かべて眠りについた。 「…ま、いいけど」 それだけ俺の匂いに囲まれていたいってことなんだよな… 愛おしさが溢れて。 規則的な寝息を繰り返す、少し開かれた楓の唇に唇を重ねる。 それから、ずっしりと重量感のある自分の服の山を少しだけ崩して、息苦しさから解放されると。 ふと、大事なことを思い出した。 「やべ…アフターピル、飲ませてないな」 いつもは、眠ってしまう前に必ず飲ませているのに、昨日は俺も疲れてたのか、すっかり失念していた。 「…ん…蓮くん…?」 キスで目が覚めたのか、ゆっくりと目蓋を持ち上げた楓が、もぞもぞと巣の中から這い出てきて。 ふにゃんと緩く微笑む。 その愛らしさに、一旦収まった熱がまた上がる。 ダメだ… 落ち着いてるうちに諸々終わらせないと すぐに昂りそうになる自分を無理やり押さえつけ、楓の頬をゆっくりと撫でて覚醒を促した。 「楓、少しなにか食べようか?俺がいない間、殆どなにも食べてないんだろ?」 「…んー…いらない…蓮くんがほしい…」 でも、まだ半分眠ったままの甘えた声でそう言われて。 下半身がズクンと疼く。 「じゃあ、とりあえず薬だけ飲もう。飲んだら、またいっぱい気持ちよくしてやるから」 「…くすり…?」 俺の言葉に、しばらく考えるように視線を宙に彷徨わせ、スッと表情を消した。 「…楓?」 「…やだ…くすり、のみたくない…」 「え…?でもさ…」 「やだっ…」 駄々っ子のように、首を振って。 ぎゅっと俺にしがみついてくる。 「…蓮くんの、あかちゃん…ほしい…」 切ない響きを帯びた、予想もしていなかった言葉に。 一瞬、頭が真っ白になった。 楓は今でもヒートの時の記憶は殆どない だから、この言葉も楓の意志ではなく、本能が言わせた言葉に違いない そうわかっているけど 「あかちゃん…ほしいよ…」 今まで、ヒートの時だってそれを口にすることはなかった 薬を差し出せば素直に飲んでいた ヒートが終わったら おまえは後悔するのかもしれない 亮一や誉先生には まだ早いって怒られるかもしれない それでも、俺は 「…うん。わかった。今度こそ、あのこに二人で会いたいもんな」 奇跡を信じてみたいんだ 血の繋がった兄弟である俺たちが 運命の番として生まれたこと そのことにきっと なにか意味があると思うから 俺はおまえだけを幸せにするために おまえのαとして生まれたんだと信じているから 「うん…」 俺の言葉に、楓はまた幸せそうに微笑んだ。

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