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番外編 Robin(ロビン)11 side蓮

次の休みの日、二人でショッピングに出掛けた。 街はすっかりお正月ムードだったけれど、まだイルミネーションもたくさんあって。 早い夕暮れ時のキラキラ光る街並みを、二人でのんびりと歩いた。 その色鮮やかな眩い光を目に映した楓は、ずっと楽しそうにニコニコ笑ってる。 「そんなに楽しい?」 「うん。だって、俺らちゃんとしたデートするの、すっごく久しぶりじゃない?」 そう言われて。 再会してからこれまで、デートらしきものは殆どしたことがなかったことに、思い至った。 いや、それどころかデートっぽいデートって 高校生の時に行った江ノ島くらいかも… 一緒に住むようになっても 目を離すと幻のように消えてしまいそうな気がして あんまり家から出したくなかったからなぁ… よく考えたら楓だって普通にデートしたいに決まってるよな… 「…ごめん」 「え?なんで蓮くんが謝ってんの?」 思わず頭を下げると、楓は不思議そうに首を傾げる。 「いや、来年はさ、クリスマス当日は無理かもだけど、ちゃんと休み取って綺麗なイルミネーションゆっくり見に行こう」 自分自身に言い聞かせるように、言葉にすると。 楓の眉が困ったように下がった。 「別に無理しなくていいよ?俺は、蓮くんと二人で居られれば、それで十分なんだから」 「俺が、楓を連れていきたいの」 「蓮くん…」 「楓と一緒に、たくさんのものを見たい。二人だけのたくさんの思い出を作りたい。楓は?そうじゃない?」 訊ねると、一瞬だけ泣きそうに顔を歪めて。 「…ううん…俺も、蓮くんとの思い出、いっぱい欲しい…」 でもすぐに、嬉しそうに微笑む。 「じゃあ、楽しみにしてる」 「ああ。でも、その前にさ」 俺は、事前に調べておいたセレクトショップの前で足を止めた。 「遅くなったけど、今年のクリスマスプレゼント買わせて?」 楓の手を引いて店に入り、レジの側の陳列棚から手袋とマフラーを手に取る。 昨日下見にきて目星はつけておいたけど せっかくだから楓に一番似合うものを贈りたいから 「これ、どうかな?」 クリーム色のシンプルなカシミヤのマフラーを、首に巻いてみた。 想像通り、マフラーの柔らかな色が楓の色素の薄い柔らかな髪色と重なりあって、楓の優しい雰囲気を際立たせてくれる。 「…うん、いいね。これにしよう」 マフラーと一緒に細身の黒い手袋を買って、店を出て。 「遅くなったけど…メリークリスマス、楓」 マフラーを首に巻いてやると、ふわりと柔らかに微笑んだ。 「ありがとう、蓮くん」 次に手袋をはめてやろうとすると、首を横に振って。 「こっちは、蓮くんがはめて?」 右手のを、俺に渡す。 「え…?」 気に入らなかったのかと焦ってたら、楓は微笑みながら俺の右手に手袋をはめて。 「こっちは…これがいい」 手袋をはめてない右手を、俺の左手をそっと重ねた。 「こっちの方が、あったかいもん」 繋いだ手から伝わる温もりに、じわりと心が暖かくなる。 「そうだな」 重なりあった手を、俺のコートのポケットに入れて。 「じゃあ、行くか」 「うん」 寄り添いながら、夕闇に覆われ始めた賑やかな街へと足を踏み出した。 「夕飯、なに食べる?」 「んー…中華?」 「お、珍しいじゃん」 「昨日テレビで紹介してたお店、すごく美味しそうだったから」 「へぇ、じゃあそこ行こうか」 ポケットの中の手を、ぎゅっと握ると。 ちらりと、目の前を白いものが舞い落ちる。 「あ…雪だ…」 空を見上げた楓は、とても透明で美しくて。 「綺麗だね、蓮くん」 「…ああ。そうだな…」 ちらちらと舞い降りる雪に彩られた俺の天使の姿を、俺はいつまでも見続けていた。 END

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