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超番外編 雀鷹(ツミ)19 side櫂

日曜日の渋谷はひどく混雑していた。 「うぇぇ…すごい人…」 人混みがあまり得意ではない凪は、駅を下りた途端に嫌そうな顔。 「そりゃあ、まぁ…渋谷だからな」 「やっぱ、楽譜はネットで買おうかな…」 「ええー!?折角来たのに…じゃあせめて、俺のシューズ選びには付き合ってよ」 「うーん…」 「ほら。俺と手ぇ繋いでれば大丈夫だろ?」 もう一度手を繋ぐと、凪はしぶしぶ雑踏へと足を踏み出す。 「なんで、こんなに人が多いのぉ…?」 「そりゃ渋谷だからな」 人にぶつかりそうになるたび、俺にぎゅっとしがみついてくるのが可愛くて。 ついつい、頬が緩んだ。 双子だからか やっぱ凪が隣にいるのが一番しっくりくるんだよなぁ 双子だから番になれるわけないんだけど でも、凪よりも大切に思うΩなんて この先、現れるのかな…? 「そういや、さ。世絆が、凪が本当にΩだったら、番になりたいって言ってたぞ」 何気なく思い出したことを口にすると、凪は困ったように眉を潜める。 「えー?そんなこと言われても…」 「ガキの頃、お嫁さんになってくれるって約束したって聞いたけど?」 「そんなの、覚えてないし。そりゃあ、世絆のことは嫌いじゃないけどさぁ…」 食いぎみに否定したのを聞いて、なぜかちょっと胸がスッとした。 「まぁ、凪には俺がいるしな」 繋いだ手に、ぎゅっと力を入れると。 クスッと小さく笑って、同じように強く握り返してくれる。 「先に飯にするか。俺、腹減ったわ」 「いいけど…この時間じゃ、どこ行っても並ぶよねぇ?」 「まぁな」 「…僕、牛丼でいい」 「おまえね…折角来たのに、牛丼はねぇだろ…」 人でごった返してる、スクランブル交差点を渡ろうとした。 その時。 ふわりと 甘い香りがした 「え…?」 思わず振り向くと。 大勢の人の中で、なぜか目を引かれる小柄な後ろ姿。 ドクン、と 大きく胸が疼く 「櫂…?」 凪としっかり繋いでいたはずの手が、離れると。 向こうが勢いよく振り向いて。 全身が 雷に打たれたように、震えた その大きな鈍色の瞳が俺を捉えた瞬間 周りの景色も音も消え去って 世界は 俺とそいつだけになる 「…あんた…なに…?」 耳に届いた声は 俺の心の奥底までも震わせて その瞬間 唐突に理解した 「…俺は、櫂。あんたは?」 「……真白(ましろ)……」 見つけた 俺だけの、Ω 【漆黒の翼 All End】

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