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第2話 バスに揺られて

 数時間前から乗り物に揺られ続けて、正直俺は吐きそうだ。蹲って耐えていると、横から薬が差し出された。 「ほらこれ飲んで。京は酔いやすいんだな」  笑って水も受け渡してきた彼にむっとしながら、勢いよく薬を飲みこんだ。彼は長時間乗り物に乗ってきたのに涼しげな顔をしている。俺が酔いやすいんじゃなくて、こいつが頑丈なだけだと思う。 「杏一は酔わないのか?」 「んー、酔ったことないな。それより、まだ着くまでにしばらくかかるから眠ってなよ。起きていても辛いだけだろう?俺が起こしてやるから。眠いって顔に書いているぞ」  確かに今日は朝早くに起きたから、少し眠い。 「じゃあ、お言葉に甘えて。着いたらちゃんと起こしてくれよ」 「京、けーい。起きて、着いたぞ」  聴き馴染みのある声で揺さぶられ、目を開けると杏一の顔面が間近にあった。 「うわっ」 「そんなに驚くことないだろ。ここ終点だから、降りて歩くよ」  スタスタと歩いてバスを降りようとする杏一を見て、慌てて俺も起き上がった。  リュックを背負い、スーツケースを引きずる俺を、杏一はなんだか可笑しそうに笑って見てくる。 「なんだよ、いい加減俺の荷物を見て笑うな」 「いや、だってさ。いくら何でも多すぎでしょ。何が入ってるんだ」   はははっと笑って、俺のリュックを叩いてくる。 「服だって洗濯できるし、俺の貸すよって言ったのに」 「服以外にもいろいろ入ってるんだよ。いいだろ別に」 「あーあ、俺の服着て欲しかったのにな」 「そんなに着て欲しいなら着てやるから、早くお前の家行くぞ。ここ暑いんだよ」  何がそんなに嬉しいのか、急に目を輝かせて「こっちだよ」と家に案内し始めた杏一。 早くエアコンの冷風に当たりたい。  八月の盆地は想像以上に暑かった。

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