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第5話 はじめまして
「おはよう」
「おはよー、昨日のドラマ見た?」
「見た見た!それより今日、転校生が来るんだって」
「えっ本当!どんな子が来るの!」
みんなが元気よく会話している中、俺はいつも通り一人静かに席に着いた。転校生なんて俺には関係ないしな。
「初めまして、山梨県から来た原城杏一です。これからよろしくお願いします」
先生からの紹介や転校生の自己紹介が進んでいる時、俺は窓の外を眺めていた。とても天気が良い日で、蝶が花の周りを飛んでいるのが見えた。
今日も特に何事もなく終わるだろうなと考えていた時、前から強い視線を感じた。
「初めまして、原城杏一です。今日からよろしくな」
「えっ、あの……よろしく、お願いします」
は?なんで俺の前なんだよ。望んでこうなったわけじゃないのに、なんだか女子からの視線が痛い。俺の平穏な日々を返してくれよ。無駄にイケメンなのも腹が立つ。
昨日、俺の席の後ろに机を置き始めたから何かと思ってたけれど、転校生の机だったのか。絶対に後ろの席は譲りたくないから、机を持ってきた先生に俺の前においてくれって言ったんだよな。もっと考えるべきだった。
起きてしまったことは仕方がない。この状況で何事もなく過ごせるように全力を尽くすだけだ。
「安藤、原城に学校の案内とかしてやれよー」
先生がそう言って朝のホームルームは終わった。そして、俺の平和な時間も終わりを告げたと思っていた。
だが、めちゃくちゃ話しかけられるかもと思ってびくびくしていたのに、朝に話しかけられて以降は特に何もなかった。
周りに勝手に人が集まって、俺に話す時間なんてなさそうだった。さっきも部活動の見学とかであっちこっちに引っ張られていたし、なんか杞憂だったな。
図書委員の当番があった俺は、放課後の大して人の来ない図書館へ行き、貸出台で呆けていた。どうせ今日も誰も来ないだろ。
夕日に当たってうとうとしていると、足音が聞こえてきた。ん?誰だよ。
「これ借りるよ」
えっ、こいつ何でいるの、取り巻きはどうした?
「そんな驚かなくてもいいだろ。バーコード読み取ってくれる?」
「あ、はい」
あっこれ、俺が好きな作者の本だ。
「あのさ、一緒に帰らない?さっきまで部活動見学していたんだけれど、トイレに行ってたら迷っちゃってさ。どうせもう委員の仕事も終わりだろ?」
時計を指しながら相変わらずかっこいい顔で笑っている。なんなんだこいつは、勝手に迷子になって俺と一緒に帰ろうって、一緒にいるのを見られるのは嫌なのに。
だってこいつ転校初日から人気者になっちゃってるし、なるべく静かに関わらずに過ごしたい俺としては、一緒にいて百害あって一利なしな存在だ。でも、転校生を無視して先に帰るっていうのもなんだか後味が悪い。
しばらく悩んだ後、仕方ないから一緒に帰るかと思い鞄を持とうとした。持とうとしたのだが、なぜかあいつが俺のカバンを持っている。
「おい、返せよ」
「ははっ返して欲しかったら一緒に帰るぞ」
小走りで図書館を出ていこうとするあいつを急いで追いかけた。そしてそのまま玄関まで走り抜けて、俺は息を切らしていた。
「安藤は走るのが遅いな」
それなりの距離を走ったはずなのに余裕そうなあいつは、俺を見ながら笑っている。なんで俺がこんなに振り回されてるんだよ。俺の方が転校生みたいじゃないか。さすがに腹が立ったのでキッと睨んでみた。
「悪かったって、ほら鞄返すよ」
あいつから鞄を奪い取って靴を履き替える。本当はそのまま無視して帰ってもよかったのだが、振り返って見たときのあいつの顔が何だか放っておけなかったから……
「何でそこに突っ立ってるんだよ。一緒に帰るんじゃなかったのか」
「…た、けいた、京太。起きろ、祭りの準備するぞ。」
あれ、夢か。どうやら昼寝をしてしまっていたみたいだ。杏一に初めて会った日、確かあの後に本の作者の話とかで盛り上がって、気づいたら友達になってたよな。
杏一はあれやこれやと俺の前に持ってきて、いろいろ準備している。これから着替えて祭りの手順を聞くのだが、いくら何でも付け焼き刃すぎないか。
時間は沢山あったはずなのに、聞いてもはぐらかされてばかりで祭りの内容はほとんどよく分かっていない。村に来てから気づけば1週間は過ぎていた。
村の繁栄を願う祭りらしいが、そもそも村人と会っていないから繫栄とか言われてもなあという感じだ。だが、引き受けてしまったからにはちゃんとやらなきゃだめだよな。
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