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第6話 白無垢

 時刻は午後3時、俺は杏一に起こされ、離れの一室で白い着物を用意された。そして、なぜか白い布を顔に被せている人達が高そうな着物を準備している。  えっと何?この人達は誰なんだ。助けを求めようと杏一の方を向くと、着物やその他の用具を確認していた。 「杏一、あの……もしかしてこれを着るのか?」  どう見ても花嫁衣裳の白無垢じゃないか、俺は男だぞ。そもそも祭りの衣装に白無垢ってどういうことだよ。まさか、村の男が皆で白無垢を着てお祈りするなんて馬鹿げた祭りじゃないよな。 「そう、これを着て神社でお祈りをする。そしてお神酒を飲んで終わり、やらなきゃいけないことはこれくらいだ。簡単だろ?」 「でも俺は男だし、さすがに女物の着物はちょっと無理だろ。それに、この人達は一体……」 「まあ細かいことは気にしなくて大丈夫だからさ、白無垢なのはちょうどいい役の人がいなかったんだよ。形式的なやつだからそんなに考えるなって」 「いやでも……」 「俺は先に神社で待っていなきゃいけないから、先に行ってるぞ。京太は後からゆっくりおいで、案内してくれるから」  そう言って杏一は出て行ってしまった。一人取り残され、どうしたらいいんだとおろおろしていると、「失礼致します」という声とともに薄い着物の袖を通されていた。  それから色々と着せられて体が重くなっていき、化粧までもされた。さっき杏一は役とか言ってたけれど、白無垢を着る役って……花嫁しかいないじゃん。  俺は花嫁役なのか、形式的なものとはいえ花嫁……杏一のお嫁さんってことになるのか。いや、なんで俺なんだよ。いくら過疎地域とはいえ、村の女子とかで他にもっと適任がいるだろう。  やっぱり、この格好は恥ずかしい。神社ってことは外に出るってことだろ。この着物で外には出たくないな。 「あの、すいません。どうしてもこの格好じゃないと駄目なんですか」  杏一が出て行ってから何度か話しかけているのだが、全て完全に無視されている。どうして顔を隠しているのかとか、祭りで何をするのかとか。  淡々と仕事をしていく人たちを見て、どうせ何も答えてくれないんだろうと思った。杏一に聞いた通り、この村の人はかなりよそ者に警戒心を持っているのだろうか。 「ハラシロ様はお役目をお果たし下さい、あとは他の者がご案内致します」 「えっ?」  返事が返ってくるとは思わなかった。いや、正確には答えになっていないんだけれど…… 「はらしろって何ですか、役目ってお祈りのことですか?」  矢継ぎ早に質問してしまったが、頭を下げて「外に駕籠が待っております」としか言ってくれなかった。 「こちらでございます」    部屋の襖が開かれ、中学生くらいの少年が廊下にしゃがんでいた。この子も顔を隠していて、灰色の着物を着ていた。  少年に導かれ、部屋を出て慣れない着物姿で廊下をのろのろ歩いた。  さっきの人達は大人だったけれど、この少年なら年も近いし、何か教えてくれるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、声をかけてみた。 「君はこの家の子なの?」  少し待ってみたが返事はなかった。さっきの大人たちは杏一の言っていたお手伝いさんなんだろうけれど、中学生が使用人ってことはないだろうからこの子は杏一の弟なのだろうか。でもあんまり似てないな。 「ねえ、はらしろって何か知ってる?俺何も知らないからさ。村の繁栄を願う祭りって、君たちは何をするの?」  部屋を出てからずっと、廊下のきしみ、衣擦れの音しか聞こえない。どうして話してくれないのだろうか。部外者って言っても、一応祭りの参加者なんだからもう少しフレンドリーにしてくれてもいいと思うのだが。    黙々と歩く少年について行き、離れ専用の玄関を使って外へ出た。そこは杏やこぶしが咲き乱れている庭で、まるで高級旅館のようだった。  庭の道を歩いていき、屋敷の敷地と外を区切っている土塀の前まで来た。 「塀を出てすぐに駕籠が待っております。それと、あまり使用人にお声をかけるのはお控えください」  少年に有無を言わせないような強さで言われてしまった。なんでそんなに話したら駄目なんだよ。話したら何か悪いことでも起こるのか?  塀の引き戸を開けてもらい外へ出ると、人が一人乗れるくらいの四角い箱に取っ手の付いたものが置いてあった。これが駕籠か。  漆黒に塗られてかなり年季が入っているようだが、壊れないよな。

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