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第10話 夢の中

 キィーー!  けたたましいブレーキ音が響き、大きな衝撃音が鳴った。雨の降る夕暮れ時に、郊外を走っていた車の衝突事故が起こった。  ピッ、ピッ、ピッ……  消毒液の匂いがする建物の一室で、ベッドを囲みながら話をする二人の女性がいた。 「骨折は徐々に回復していますね。打撲の痕もだいぶ薄くなりましたし……でも意識が戻りません、大丈夫でしょうか」 「それについては先生も分からないそうよ」 「早く治って目覚めてほしいです」 「けれど、彼にとってはこのまま眠っている方が幸せかもしれない。可哀そうにね」  新人を連れて、ベテラン看護師は電気を消して病室を後にした。少年が病院へ運ばれてから1カ月半、彼は一度も目を覚ましていない。  部屋に残された少年は、一人ベッドで夢を見ていた。 「行ってきまーす」 「行ってらっしゃーい」  出勤する父親を見送り、少年は母のもとに向かって走った。 「お母さん、買い物に行こう!」  はしゃいでいる少年は、母親の手を引いて早く早くと言っている。 「京太ってば、そんなに急がなくても大丈夫だよ。お父さんはまだ帰ってこないからゆっくり行こう?それに京太、まだパジャマのままじゃないの」  母に連れられて着替えをし、買い物リストを握りしめて一緒に街まで出かけた。  イチゴや生クリーム、鶏肉などを買って、誕生日パーティーの材料を買いそろえた。家に着くと早速料理を開始し、つまみ食いをしながらも大きなホールケーキを完成させた。  父親が帰ってくる頃には焼かれた鶏肉やパエリアなど、普段は食卓に並ばないものがたくさんでき、早く帰ってこないかなーとそわそわしながら父親の帰りを待った。 「ただいまー」 「あっ、おかえりなさい!」  帰ってきた父親をリビングルームに連れて行こうとすると、目の前が真っ暗になった。  ん、なんだろう。ここ、どこ?

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