50 / 223

第50話

 祖父は70を過ぎても矍鑠とし、腰もまっすぐだった。  髪は総白髪だが、それも全て白く染めているらしい。  理由を聞いたら、自らの白髪が増えてきたことを気にした祖母に祖父は『そんなことを気にする必要はない。どんなお前も美しい。それに白髪もおしゃれだ』と言って、自分の髪を全部白く染めてしまったらしい。  今では祖母の髪の色もお揃いで、たまに二人でペアルックみたいに服の色も併せている時など、本当におしゃれで    素敵なカップルだなと俺は感心していた。  洋服選びなら、センスのある祖父がいた方が心強いと俺は笑顔になった。 「じゃあ、行こうか」  祖父に促され、俺達は三人でデパートに足を踏み入れた。  贈る相手の年齢や、目の色、髪の色を教えて欲しいと祖父に請われ、俺が同い年の営業の男性で、髪の色は……などと答えると祖父はネクタイを一本選び出した。  それはグレーのシルクのネクタイだった。  持ってみると肌触りがよく、すぐに高級品だと分かる。 「それは地味すぎじゃないか?若い子なら、これくらい遊び心のある方が」  父がえんじとからし色のチェックのネクタイを俺に勧める。 「お前は本当に分かってないな。営業でそんな軽薄なネクタイを付けて行ったら、いっぺんで契約と信頼が吹き飛ぶぞ」  祖父の口調は辛らつだった。 「はあ?これくらい今時は普通だって。これだから年寄りは」  父と祖父はたまにくだらないことで言い争う。  言い争いは一度始まると長いのが特徴だった。  俺は咄嗟に、グレーのネクタイを持った手を上げた。 「俺、これにする」 「いいのか、それで」  舌打ちでもしそうな雰囲気で父が問う。 「うん。これ俺も気に入ったし」  深みのあるグレーは大賀よくに似合うと思った。

ともだちにシェアしよう!