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第50話
祖父は70を過ぎても矍鑠とし、腰もまっすぐだった。
髪は総白髪だが、それも全て白く染めているらしい。
理由を聞いたら、自らの白髪が増えてきたことを気にした祖母に祖父は『そんなことを気にする必要はない。どんなお前も美しい。それに白髪もおしゃれだ』と言って、自分の髪を全部白く染めてしまったらしい。
今では祖母の髪の色もお揃いで、たまに二人でペアルックみたいに服の色も併せている時など、本当におしゃれで 素敵なカップルだなと俺は感心していた。
洋服選びなら、センスのある祖父がいた方が心強いと俺は笑顔になった。
「じゃあ、行こうか」
祖父に促され、俺達は三人でデパートに足を踏み入れた。
贈る相手の年齢や、目の色、髪の色を教えて欲しいと祖父に請われ、俺が同い年の営業の男性で、髪の色は……などと答えると祖父はネクタイを一本選び出した。
それはグレーのシルクのネクタイだった。
持ってみると肌触りがよく、すぐに高級品だと分かる。
「それは地味すぎじゃないか?若い子なら、これくらい遊び心のある方が」
父がえんじとからし色のチェックのネクタイを俺に勧める。
「お前は本当に分かってないな。営業でそんな軽薄なネクタイを付けて行ったら、いっぺんで契約と信頼が吹き飛ぶぞ」
祖父の口調は辛らつだった。
「はあ?これくらい今時は普通だって。これだから年寄りは」
父と祖父はたまにくだらないことで言い争う。
言い争いは一度始まると長いのが特徴だった。
俺は咄嗟に、グレーのネクタイを持った手を上げた。
「俺、これにする」
「いいのか、それで」
舌打ちでもしそうな雰囲気で父が問う。
「うん。これ俺も気に入ったし」
深みのあるグレーは大賀よくに似合うと思った。
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