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第49話
「課長は俺の時間を奪ってるっていうけど、それだったら俺だって同じ様に課長の時間を奪ってることになるでしょ?」
「でも俺はお前と一緒だと楽しいから」
酔っぱらっているせいで、本音がぽろりと零れる。
「俺だって楽しいですよ」
「嘘だあ」
「嘘じゃないですよ。最初は課長のこと冷たくて威張ってる差別主義のアルファだって俺決めつけてたけど。ちゃんと知ったらびっくりするほど可愛くて、放っておけないんだもの」
大賀がくすくすと笑う。
「やっぱり嘘だ。それか夢」
こんなでかくてごついアルファが可愛いわけがない。
嘘だと分かっても大賀に可愛いと言われると、俺の胸は甘くよじれた。
「嘘でも、夢でもないんですけどね」
大賀がゆっくりと俺の背中を撫でる。
その感触が気持ち良くて、俺の瞼が徐々に重くなってくる。
「来週の週末はどこに出かけましょうか。課長の眼鏡も買いに行くのもいいですね。あっ、ちゃんと今日買った服、着て来てくださいね」
俺は完全に目を閉じて、夢の世界に片足を突っ込んでいた。
「課長。寝ちゃいましたか?」
ふいに額に柔らかいものが触れる。
「おやすみなさい、唯希さん」
俺はむにゃむにゃと呟くと、大賀の規則正しい心音に耳を澄まし、完全に眠りに落ちた。
俺はそれからも何度か大賀に洋服の代金を返そうとしたが、彼は頑なに受け取らなかった。
それならば俺も彼に何かプレゼントを贈ろうと考えた。
仕事でも使えるようなネクタイはどうだろうかと思ったが、俺は服に関するセンスが壊滅的になかった。
困り果てた俺は、父を頼った。
「ごめんな、唯希。唯希と買い物に行くって言ったら、俺も唯希に会いたいって付いて来ちゃって」
待ち合わせ場所で父が隣の男、俺の祖父にあたり、樹の父親でもある成澤 貴一を親指でさす。
「迷惑なら帰るように言うぞ」
父親の言葉に俺は慌てて首を振った。
「ううん。俺も久しぶりにお爺ちゃんに会いたかったし」
俺は祖父にむかって頭を下げた。
「ご無沙汰していてすみません」
「いや、仕事はどうだい?樹の会社には入社しなかったらしいが」
「はい、まだまだ覚えることも多いですが、何とかやってます」
祖父は俺の言葉を聞いて、目尻に大量の皺を寄せながら微笑んだ。
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