158 / 223
第147話
俺はようやく息を吐くと、急に自分の体の状態を思いだした。
熱い体を持て余し、目を閉じる。
大賀の香りがする。
ヒートの甘い香りとは違う、きりっとした男性らしい香りを鼻孔が捉え、胸が高鳴る。
目を開けると、大賀の置いていったカバンが目に入った。
こんなことダメだと分かっているのにそれに手を伸ばしてしまう。
俺はカバンを抱きかかえ、横になった。
大賀の香りがするそれに鼻を寄せ、腰を少し動かすとそれだけで俺は達してしまった。
玄関の扉が開く音がする。
「唯希さん、大丈夫ですか?」
「大賀」
カバンを持ったまま上体を起こすと、大賀が怪訝な顔をした。
「あっ、これは」
慌ててカバンを床に置くと、自分の下半身がしっかりと主張しているのが目に入った。
イッたばかりなのに。
俺は羞恥で頬を染めると、膝を抱え蹲る。
「ごめん、ちょっと俺」
「弟はベータが運転手のタクシーに乗せたから大丈夫です。それより薬使われたこと聞きました。どうします?抑制剤使いますか?」
俺は首を振った。
「市販のはもうずっと飲んでいるからあまり効かないみたいだ。病院から処方された薬は全部使ってしまった」
大賀が俺の傍に座り、肩に触れた。それだけでまた俺の屹立は熱をおびる。
「全部使ったって、どうして?」
俺は顔を上げると、大賀と見つめ合った。
「オメガの人が傍にいると、ずっとヒートの香りを感じてしまうようになって、どうしようもなかったんだ。大賀がせっかくくれたあのお守りの抑制剤も使ってしまった。ごめんな」
謝った瞬間、俺の眦から涙が零れた。
大賀が眉を寄せる。
「あんなのどうだっていい」
大賀はそう言うと、俺の頬を流れる涙を親指で掬った。
別れてからずっと俺に対して無関心な態度を貫いていた大賀のその行動にびっくりして、俺の涙が自然と止まる。
ともだちにシェアしよう!