170 / 223
第159話
俯く俺に大賀はため息をついた。
「すみません。話を戻しましょう。俺は蔵元の事件も貴方との血の繋がりもどうだっていい。でも唯希さんはそのことが気になって、俺との別れを決断したんですよね?」
頷くと、大賀が苦笑した。
「さっきも言ったけど、気にしないなんてあなたの性格上無理だ。なら向き合うしかない」
俺は首を傾げた。
「蔵元に会いに行ってみませんか?」
掌が冷たくなり、息苦しくなる。
「起訴されても面会くらい可能でしょ?」
「そんなの無理だ」
「なぜ?血の繋がりがある貴方が面会に行くのはおかしくない」
「だって両親が嫌がる」
「唯希さん」
大賀が俺を抱きよせ、背中を撫でる。
「これは提案です。無理強いするつもりは全くありません。でも唯希さん、本当は蔵元と話してみたいんじゃないんですか?彼が何を考えているのか知りたいんじゃないんですか?」
大賀の言った通りだった。
俺はずっと前から蔵元と話しをしてみたかった。
蔵元の行動だけをみれば、彼が酷い男だというのは間違いない。
しかし何故そんな行動を起こしたのか。
彼の行動を少しでも理解したかった。
そうして理解できれば、俺は蔵元と同じ轍を踏むことはないんじゃないか。
そんなことも考えた。
しかしその望みが俺が口にすることはなかった。
俺が蔵元に会いたいなんて、両親に言えるわけがない。
蔵元は望んでもいない母の腹に俺を植えつけ、逃げた悪魔だ。
そんな男に会いたいなんて、育ててくれた両親に対する裏切りにも思えた。
「無理だ。俺が蔵元に会いに行けば、両親が傷つく」
「唯希さん、それは違う」
大賀が俺の手を握りしめる。
「ご両親は唯希さんが蔵元に会ったからって怒ったり、傷ついたりしない。ご両親が一番嫌なのは唯希さんが傷つくことだ。だから唯希さんを守ろうと蔵元のことを忘れろと言った。でもそれは俺は間違っていると思う」
ともだちにシェアしよう!