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第159話

 俯く俺に大賀はため息をついた。 「すみません。話を戻しましょう。俺は蔵元の事件も貴方との血の繋がりもどうだっていい。でも唯希さんはそのことが気になって、俺との別れを決断したんですよね?」  頷くと、大賀が苦笑した。 「さっきも言ったけど、気にしないなんてあなたの性格上無理だ。なら向き合うしかない」  俺は首を傾げた。 「蔵元に会いに行ってみませんか?」  掌が冷たくなり、息苦しくなる。 「起訴されても面会くらい可能でしょ?」 「そんなの無理だ」 「なぜ?血の繋がりがある貴方が面会に行くのはおかしくない」 「だって両親が嫌がる」 「唯希さん」  大賀が俺を抱きよせ、背中を撫でる。 「これは提案です。無理強いするつもりは全くありません。でも唯希さん、本当は蔵元と話してみたいんじゃないんですか?彼が何を考えているのか知りたいんじゃないんですか?」  大賀の言った通りだった。  俺はずっと前から蔵元と話しをしてみたかった。  蔵元の行動だけをみれば、彼が酷い男だというのは間違いない。  しかし何故そんな行動を起こしたのか。  彼の行動を少しでも理解したかった。  そうして理解できれば、俺は蔵元と同じ轍を踏むことはないんじゃないか。  そんなことも考えた。  しかしその望みが俺が口にすることはなかった。  俺が蔵元に会いたいなんて、両親に言えるわけがない。  蔵元は望んでもいない母の腹に俺を植えつけ、逃げた悪魔だ。  そんな男に会いたいなんて、育ててくれた両親に対する裏切りにも思えた。 「無理だ。俺が蔵元に会いに行けば、両親が傷つく」 「唯希さん、それは違う」  大賀が俺の手を握りしめる。 「ご両親は唯希さんが蔵元に会ったからって怒ったり、傷ついたりしない。ご両親が一番嫌なのは唯希さんが傷つくことだ。だから唯希さんを守ろうと蔵元のことを忘れろと言った。でもそれは俺は間違っていると思う」

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