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第161話

 美味しそうな香りに鼻をひくつかせ、俺はゆっくりと瞼を開いた。  目線をぐるりと回すとキッチンに立っていた大賀とちょうど目が合う。 「おはよう、唯希さん」  付き合っている間何度も見た、大賀のとろけそうな笑みに俺も自然と口角が上がる。  ふいに昨日のことを思いだし、俺は上半身を起こした。 「大賀、俺」 「話は後にしましょう。唯希さん、自分で気付いてますか?かなり痩せちゃってますよ。まずは朝食にしましょう」  時計を見ると9時を少し過ぎていた。  ベッドから降りると、大賀に近づく。 「体、どっか痛いところとかありませんか?薬で気分が悪くなったりは?」 「大丈夫」  正直な話、昨夜はここ最近で一番よく眠れた。むしろ頭はすっきりとしている。 「じゃあ、朝ご飯にしましょう」  テーブルにはクロワッサンに蒸し鶏と卵が挟まれたサンドイッチ、カラフルなサラダ。俺の好物のツナとトマトのパスタまで並んでいる。  大賀に促され、俺は席についた。  向かいの席に大賀が腰を降ろす。 「食材まで買いに行って作ってくれたのか?冷蔵庫、何にも入ってなかっただろ?」 「本当にびっくりするくらい何も入ってませんでしたよ。唯希さん俺と別れてから一体何を食べてたんですか?」  大賀と別れてから食欲もほとんどなくなってしまった俺は、酷いときは丸一日何も食べないこともあった。  空腹で眩暈を覚えると、仕方なくコンビニで買った菓子パンを口に運ぶ。そんな日々だった。  自分の酷い食生活が急に恥ずかしくなって、俺は無言で視線を逸らした。 「ったく。唯希さんはちょっと目を離すとこれだからなあ」  大賀が独り言ちる。  スパゲッティをフォークに巻き付けると大賀が俺の口元にそれを持ってくる。 「ちゃんと食べて」  大賀の瞳に心配気な色を見てとった俺は、言われた通りに口を開きパスタを咀嚼した。

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