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第1話
僕は望(のぞむ)
なんて忌々しい名前を付けたんだろうか、と両親を訝しむ。
当時の僕は小学3年生、8歳の時、両親は離婚した。
引取ろうとしない両親。
行き来が無かったにも関わらず、僕は田舎の祖父の家に預けられる事になった。
祖母は既に他界していた。
都会に慣れた僕。
山あいの豊かな自然に興味なんて沸かず、何処か、気を使ってくれている風な祖父にも申し訳ないが疲れていた。
僕は両親に捨てられた。
2カ月待っても両親は僕を引取りには来なかった。
僕は古ぼけた木造の昔ながらの一軒家の広い庭先で扇風機の生ぬるい風に当たりながら、祖父の切ってくれたスイカを無言で齧っていた。
「望、望」
振り返ると甚平姿の祖父がなにやらチラシをちらつかせている。
「明後日、近くの神社で花火大会やるそうや。お前も行ったらどうや?」
夏休み前に僕はこの田舎に越してきた為、転校先のここの学校には夏休み明けから通学する事になっていた。
友人もおらず、つまらない日々を祖父は考慮したのだろう。
「いい。いかない」
「せっかくの夏休みやぞ?じいちゃんも着いてってやるから。あー、昔、あいつが着ていた甚平、探してみるかなあ」
あいつ、は、多分、父の事だろう。
結局、気乗りしないまま、僕は3日後、花火大会に向かう為に祖父に手を繋がれ、甚平を着て神社へと歩いた。
神社に着くと、田舎なのに、どうやってこんなに人が集まったんだろう、と首を傾げるくらいに人で混雑していた。
父が子供の時に着たらしい、グレーの甚平と草履。祖父からもらった首にぶら下げたがま口。
人混みを歩いているうちに僕の興味を示す、とある物、に腰を落とした。
祖父は出店のおじちゃんと知り合いらしく、話し込み、笑いあっている。
「やってみるかい?僕」
「うん!」
水槽の中、自由に泳ぎ回る金魚たちを見つめた。
小銭の代わりに金魚を掬う薄い紙の張られたのを貰う。
僕は金魚を見つめ、ひたすらチャレンジ、何度やっても破けてしまう。
「も、もう1回!おじちゃん!」
ムキになった僕はがま口に手をかけた。
「ヘッタクソだなあ、お前」
同い年くらいのTシャツに短パン姿の男の子がいつの間にか隣に来ていた。
「ほい、おじちゃん」
男の子は小銭を渡し、金魚すくいに挑もうとする。
(どうせ無理に決まってる)
が、彼はひょいひょいと片手に持った水の入った器に金魚を巧みに投げ入れてしまう。
また小銭を渡すと、また、ひょいひょい。
「い、インチキ」
「インチキなんかじゃねーよ、見てな。こう、水平にしてー...」
やり方を少年が見せてくれた。
「お前は雑すぎだから破けて逃げられんの」
(逃げられる...)
僕が両親から捨てられた事が不意によぎった。
「一真、いい加減にしてくれよ、お前がいたら金魚がみんな居なくなっちまう」
おじちゃんがその子に苦笑した。
「カズマ...?」
「うん。見ない子だね、夏休みだから親と遊びに来たとか?」
僕は無言で首を横に振った。
「おじちゃん、金魚、半分でいいから、この子に渡してあげて」
そう言い、一真は、よいしょ、と立ち上がった。
またな、と去って行った。
これが、僕と一真の出逢いだった。
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