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10 猫耳メイド①
「……こ、こんなの、聞いてない!」
悠月はあられもない姿でそう叫ぶ。
「言ってないからね。ほら、もっと尻上げて」
俺はビクつく悠月の腰を押さえ、アナルプラグを挿し込んでいく。
*
事の発端は昨日の夜だ。一通り行為を終えてさぁ寝ようかとなった時に、いっつも同じでつまらない、と悠月がぼそりと呟いた。
「つ、つまらないって……えっ、俺とのセックスが? つまんないって?」
「下手ではないんだけどな」
「うそ、なに、飽きた? 俺に飽きた?」
「うーん……」
そう唸ったきり、悠月は寝てしまった。俺はかなりのダメージを負った。
いつも同じでつまらないったって、今晩もどろどろになるまで善がっていたくせに何を言っているんだと思ったが、しかしこのままでは俺のプライドが収まらない。もう二度とつまらないなんて言わせないよう、暗い部屋でAmazonのサイトを漁った。
注文した商品は翌日の昼に届いた。さすがはお急ぎ便だ、到着が速い。悠月は昼寝に勤しんでおり、俺は一人で悠々とダンボールの中身を確認した。荷物の存在は伏せ、その後は何気ない風で過ごした。
「今日はちょっと趣向を変えてみねぇ?」
事に及ぶ直前、俺は提案した。
「昨日のあれ、まだ根に持ってたのか」
「別にそういうわけじゃないけど? でもお前がつまんないんじゃ可哀想だし、ちょっと工夫してやろうかなって。親切心だよ」
「やっぱり根に持ってるんじゃねぇか。で? 何すんだ」
悠月は可笑しそうに笑ったが、案外乗り気である。俺は満を持してそれを取り出した。
「これ着て」
悠月はぽかんと目も口も丸く開いている。
「何だよ、これ」
「メイド服。コスプレエッチしてみたくて」
黒のワンピース、白のレースエプロン、猫耳付きフリルカチューシャに、ニーハイソックス。四点セットで三千円ちょっとした。そのわりに生地は薄いし、悠月の反応も芳しくない。しかめっ面で衣装を睨んでいる。
「……これを?」
「着て?」
「本気か?」
「本気も本気、超本気。お前こういうの似合うと思うんだけど。とりあえず着てみ?」
悠月はしかめ面のまま、深く溜め息を吐いた。
「……あっち向いてて」
「着てくれんの」
「あんたが着ろっつったんだろ。おれの気が変わる前に早くあっち向け」
「へいへい」
窓の方を向き、正座で着替えを待つ。メイド服なら去年の文化祭でも着ていたし、心理的ハードルが低かったのだろう。あっさり承諾してくれた。シャカシャカという衣擦れの音が背後から聞こえる。
「まだ?」
いやに時間がかかる。手こずっているのか。
「もう見ていい?」
「あっ、ま……」
振り向いた時、悠月は背中に一所懸命腕を延ばして、エプロンのリボンを結ぼうとしていた。それ以外は完璧に仕上がっている。おお、と思わず感嘆の声が漏れた。
「ま、まだだって……」
「蝶々結びできないの? やってやるよ」
すると悠月は大人しく背中を見せる。俺はウエストのところでリボンを結んでやる。
「よしできた。こっち向いて」
悠月の体を反転させる。悠月はまだむすっと顔をしかめているが、しかし頬はほんのり紅潮している。もじもじとワンピースの裾を押さえたり、しきりに尻を撫でたりしている。丈が短いので、見えていないか心配なのだろう。
「で……どうなんだ」
「どうって」
「感想だよ。こんな……こっ恥ずかしい恰好させやがって」
悠月は目を伏せる。感想も何も、かわいい以外に言うことがない。俺はおもむろにスマホを取り出してシャッターを切った。
「はっ? ちょ、何撮って」
「いや、記念に。かわいいんだもん」
「や、やめろバカ! 連写すんな!」
「いいじゃん別に。誰にも見せたりしないって」
「当たり前だ!」
悠月は俺に掴みかかり、スマホを取り上げようとする。悠月がそっちに夢中になっているのをいいことに、俺はスカートをぴらりと捲った。悠月は慌てて裾を押さえるがもう遅い。スカートの中身をばっちり拝んだ。
「……パンツ脱いでくんない?」
「なっ、なに言って……」
「スカートの裾からチラチラ見えて気になるのよ」
「うそだ、見えるわけ……」
「自分じゃわかんねぇよ。とにかく俺が気になるから脱いで。後でどうせ脱ぐんだし」
悠月はむぅと唇を尖らせたが、屈んで下着を下ろした。片足ずつ抜いてその辺に放り投げる。どうだと言わんばかりに腕を組んで仁王立ちする。膝上二十センチのミニワンピースとニーハイソックスとの隙間に白い太腿が覗く。これぞまさしく絶対領域である。靴下のゴムが食い込み、太腿の肉感が感じられる。
「うん。すっげぇかわいい」
素直に褒めると、満足そうに顔を綻ばす。
「最初っからそう言ってりゃいいんだ」
「かわいいから写真――」
「それはだめ」
「じゃあキスしてよ。かわいいメイドさん」
悠月はぐっと口を引き結んで、布団に腰を下ろす。女の子みたいな座り方で座り、おずおずと唇を寄せる。
「……あんまり見るな」
「でもいつもは」
「この変な服のせいで、変な気分なんだよ……」
さっきから百面相でも見ている気分だ。むくれたり笑ったり照れたり、照れ隠しに舌打ちしたり。仕方ないので目を瞑ってやると、ふに、と唇が触れて一瞬で離れていった。
「終わり?」
「そもそも……メイドって、こういうことしないだろ。もっと、料理とか掃除とか、犬の散歩とか……」
「頭が固いな。こういうプレイなんだからいいんだよ。お前、料理も掃除もまともにできないくせに。いいからもっとこっち来て」
悠月は女の子みたいな座り方のまま、胡坐を掻いた膝の上に跨った。向かい合い、肩に手を置く。俺は悠月の背中を支える。
「……なんかこれって……」
「対面座位みたい?」
「んっ……」
抱き寄せてキスをした。ちゅる、と舌が入る。唾液を混ぜるごとに息が上がってくる。
スカートを捲り、露わになった性器を揉む。口が離れ、あ、と声が上がる。先走りは流していないが、半ば上向き始めている。優しく皮を剥いてやると、悠月は期待に喉を震わせる。
「っぅ、せんせ……」
「これ咥えて」
「んむ……」
ワンピースの裾をエプロンごと摘まんでたくし上げ、悠月の口に押し込む。悠月はそれを落とさないようしっかり咥える。濡れた性器も腹も胸までもが露わになる。
「前はさ、ここ弄られるの嫌がってたよな。見られるのも嫌って感じだったのに、なんでこんな簡単に触らしてくれんの」
悠月は律儀に裾を噛んだまま、もごもごと何かを言う。
「何言ってるか全然わかんねぇ。気持ちい?」
「んんぅ」
悠月はこくりと控えめに頷く。
「へぇ、気持ちいんだ。こんなに濡れてるもんな」
「んむ、んんっ……」
「後ろもほしい?」
「んう」
またこくりと頷く。
俺は悠月を布団の上へ四つ這いにさせ、スカートを捲り上げてつるりとした尻を露出させた。この角度からだとちょうど男性器が隠れるので、本当に性別がわからなくなる。物欲しそうにヒクつく蕾に指を挿し入れ、くるりと掻き回す。右手で愛撫しながら、空いている左手であるものを準備する。
「ちょーっと冷たいかもしんないけど我慢しろよ」
「ぁ、えっ、なに……!」
異物感に困惑の声を上げ、悠月はこちらを振り向く。蕾に押し当てたのは、中級者向けのアナルプラグだ。埋め込む部分が、陰茎ほどではないがそこそこ大きく太い。前立腺を刺激できるように歪んだ形をしているのも特徴的だ。
「……こ、こんなの、聞いてない!」
悠月はあられもない姿でそう叫ぶ。
「言ってないからね。ほら、もっと尻上げて」
俺はビクつく悠月の腰を押さえ、アナルプラグを挿し込んでいく。
「はぁっ、あぅ、やめ、」
「だいじょぶだって。俺のチンポよりずっと小さいから」
「ちが、だって、これ」
「大丈夫だから。一番太いとこはもう入ったし」
ぐっと根元まで押し込んだ。反動で悠月の尻が持ち上がる。
「んんっ……な、なんかふさふさすんだけど、なに……?」
悠月は訝るように尻に手を回す。ふさふさの正体に触れ、驚いたように手を引いた。
「へぁ、なにこれ、毛?」
「ふわふわ猫尻尾ちゃんだよ」
「しっぽ?」
尻尾の付け根から先端までを優しく握って撫で上げ、悠月に見せてやる。俺が昨晩コスプレ衣装と共に購入したのは、尻尾付きアナルプラグだったのだ。吟味して選んだ甲斐があった。悠月にぴったり似合っている。
「かわいいだろ? お前の尻から生えてんの」
尻尾の先端で背中や太腿をこちょこちょすると、悠月はくすぐったそうに身を捩る。
「しかも黒猫なんだぜ。見た?」
「っ、だからなに……」
「カチューシャに付いてる耳も黒だし、お前は俺のかわいい黒猫ってこった」
「……ふ、どっかで聞いたような文句だ」
「知ってたのか」
「ぁっ、ん……いいからこれ、抜けよ……こんなの入ってたら、先生の入んないだろ」
艶のある声で促され、ずく、と下半身が熱を持つ。欲に任せてうっかりプラグを引き抜くところだったが、思い留まった。せっかく買ったのだし、使い倒さなくちゃ損だ。
「実はこれ、ただ入れるだけじゃなくて動くんだ」
「は? ちょ、まっ――」
「スイッチオン」
遠隔操作できる小型リモコンのボタンを押した。悠月の体内から振動音が響いてくる。
「ん゛ぅッ……」
悠月は布団に頬を押し付けるように突っ伏し、腰をうんと高く上げる。ふりふりと尻を振ると尻尾がゆらゆら揺れて、まるで本物の猫みたいだ。盛りのついた雌猫だ。振動のパターンは何種類かあっていくつか試したが、最も反応の良いものに落ち着いた。
「ぁあっ、ん゛、や、やば、やめっ」
「どうやばい?」
「っ、ひっ、ぃとこ、あた、て……っん、ぷるぷる、して、……こっ、こすられ、てぇっ、」
長い尻尾が振動に合わせてあっち行ったりこっち行ったり、猫じゃらしみたい。ふわふわの毛に尻や内腿を不意に撫でられ、悠月は背をしならせて喘ぐ。膝がガクガク笑っている。
「あぁんッ、あ、んやッ、だめ、いぐ、ぃ゛――――ッ!!」
玩具に責められ、悠月はあっさり絶頂した。前からは何も出ない。弄っていないので当然である。
「ぃや゛ッ、あ゛ッ、とまっでっ、あぅッ、ぬいてぇっ!」
「自分で抜いたら?」
悠月は震える手を尻へ持っていき、尻尾を掴んで引き抜こうとする。しかし抜けない。力が入らないからというのもあるだろうが、こういうグッズはそう簡単に抜けない仕様になっているのだ。入口に当たる部分は細くくびれ、奥へ入るにしたがって太くなっている。だから激しい振動にも関わらず勝手に抜け落ちてこないのだ。
「やぁあ゛ッ、ぬけな、っ、せんせ、せんせぇっ、ぬいてぇ、とめてよぉッ」
必死に懇願する。俺は尻尾の付け根を掴み、つつ、と軽く引き抜いた。しかしまた、ぐちゅん、と奥まで押し込んでしまう。反動で悠月は膝を倒し、うつ伏せに崩れ落ちた。捲れ上がっていたスカートが尻を覆ったことで接合部が見えなくなり、まるで本物の尻尾が生えているような見た目になる。
「うん……かわいい……」
俺は冷静に唸った。衣服もほとんど乱れていないし、ともすれば何もいやらしいことなんてしていませんよと言い張れるくらい、ただただ純粋にかわいい。
「せんせっ、せんせぇ゛ッ!」
いややっぱり無理か。この引き攣った嬌声と微弱な振動音のせいで、何をしていたかなんて一目瞭然だ。
「俺ちょっと出かけてくっから、いい子でお留守番しててね」
「はっ、え? や、まっ、」
「すぐ帰るから」
絶望の表情をする悠月にキスをし、俺は部屋を出た。もちろんプラグは入れっぱなしだが、さすがにかわいそうなので振動は弱めてやった。リモコンも置いてきたが、悠月の手が届かない高い場所に隠したので大丈夫だろう。
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