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11 帰省①

 今年も夏がやってくる。だからといってわざわざ旅行に行ったり遊びに出かけたりはしていない。俺は仕事があるし、悠月も夏休みの課題がある。    休みにも関わらず悠月は俺に合わせて登校する。毎日ではないが、週四日くらい。学校には図書館や自習室があり、冷房も効いているので、勉強には最適なのだろう。他の生徒の目もないので――部活をやる者もいるから皆無というわけではないが、しかし気にするほどでもない――スクーターに二人乗りで登下校している。    帰りは寄り道をすることが多く、スーパーへ買い出しに行ったり、コンビニでアイスを買い食いしたり、ラーメンを啜ったり、レイトショーを見に行くこともある。デートみたいで少し――いやかなり楽しい。    夏休みも後半に入り、教職員も盆休みに入る。俺は今年も日帰りで帰省する。留守番を頼むと伝えた時、悠月はわかったように頷いていたのだが、当日の朝になって急に、おれも行くと言い出した。別に何も楽しくないと言ったのだが、悠月が粘るので連れていくことにした。どうせなら一泊してこようということになり、着替えをリュックに詰め込んだ。   「これが新幹線かぁ」    まだ出発してもいないのに、悠月はわくわくした様子で言う。座席の座り心地を確かめたり、リクライニングを調整したり、無意味にテーブルを倒したりと忙しい。   「お前、単に新幹線乗りたかっただけだろ」 「だって初めてなんだもん」 「修学旅行で乗らなかったの」 「行かなかったからな。家計がアレで」    あっさりと言う。俺ですら小中高と修学旅行は行ったというのに。切なくなったが、悠月はあまり気にしていないらしい。車両が動き出すとますます興奮してくる。   「動いたぞ、先生」 「ああ。静かにな」    俺にとっては見慣れた風景だが、悠月は車窓からの景色をじっと見る。   「先生、ここどこ」 「まだ東京じゃねぇの」 「意外と遅いな」    景色に飽きたか、今度は車内販売のメニューを手に取る。   「車内販売?」 「お姉さんが売りに来てくれるやつな。ほしいものあったら買ってやろうか」 「……でも結構高いぜ」 「そういう商売だから」    メニューと睨めっこしていたら、前方のドアが開いてワゴンが入ってくる。コーヒーやサンドイッチはいかがですかと言いながら、女性がワゴンを押して通り過ぎる。後方でコーヒーを買う乗客がいる。俺達は結局何も頼まなかった。   「先生、あれ富士山か?」    悠月は再度外の景色へと視線を移した。見てみると確かに富士山だ。快晴なので綺麗に見える。   「あれが富士山かぁ」 「初めて?」 「うん。上の方、白くねぇな」 「夏は解けるんだよ」 「一年中白いわけじゃないんだ。雪積もってるとこも見てみてぇ」    子供みたいに声を弾ませて喜ぶ姿が愛しげで、つい抱き寄せて頬にキスをした。一応、周りからは見えないように。唇を離すと、紅潮した悠月の顔がそこにある。   「悪ぃ」    何となく謝ると、悠月は怒ったように睨んでくる。トイレ、と言って立ったと思いきや、俺の腕をぐいと引っ張る。   「なに」 「一緒に来い」    仕方なくついていく。場所がわからないようだったので、先に立って案内してやった。トイレはちょうど空室で、悠月にさっさと済ますよう促したのだが、なぜか突然背中を押されて狭い個室に押し込まれた。隅の方へ追いやられ、悠月は壁に両手をついて俺の前に立ち塞がる。所謂壁ドンだが、身長が足りないのでただ抱きついているだけのように見える。   「えっ……え、なに、俺こういうとこでする趣味はないんだけど……」    悠月はむぅと唇を突き出してこっちを睨む。潤んだ瞳で上目遣いに睨まれても迫力が欠ける。唇を尖らせているのはかわいい。   「……せんせぇのせいだからな」    悠月は俺の首に腕を回して抱きつき、爪先立ちになってキスをせがむ。俺が屈んでやらないと唇が届かない。   「せんせぇ……」    この縋るような目に逆らえない。一回だけだからな、と断って唇を重ねた。    キスもそこそこに下着に手を入れ、柔い双丘を優しく割り開いていく。人差し指と薬指でそっと蕾を開き、中指をつぷりと差し込む。ピク、と悠月の肩が跳ねる。   「痛い?」 「んん……」    悠月ははっきり答えず、俺の胸にすりすりと顔を押し付ける。   「声出すなよ」 「ん」    侵入させた中指をもっと奥まで押し込む。ゆるゆると掻き回すようにして陰道を押し広げる。熱い媚肉が期待に震える。狭い個室に粘っこい水音が微かに響く。   「んっ……はぁ、せんせ……」    悠月は艶めいた吐息を漏らし、ますます強く抱きついてくる。俺からは悠月の丸い頭しか見えない。   「ぁ……せん、せ……」 「なに」 「ぃ、きもちぃ……いつもより……」    そりゃあロケーションのせいだ。新幹線のトイレでなんて、はっきり言って異常だ。他の客に迷惑だし、いつ見つからないとも限らない。でもこの異常性が興奮に作用するのだろう。それにしても悔しい。俺のアパートの方がこんな場所よりはずっと清潔で快適なのに、こんなとこでする方が悠月は気持ちいいらしい。   「ぁあッ……や、はげし……」 「悪い」 「はぁ、も……いっちゃいそ……」 「早ぇな」 「だって、きもちぃ……せんせぇ、」    腰が抜けてしまったらしく、体がだんだんずり落ちていく。座り込んでしまわないよう、必死に俺の胸にしがみついて耐える。唇を噛んで声を殺し、鼻息ばかりが荒くなる。俺も悠月の腰に手を回して体を支えてやる。   「イキそう?」 「ぅんっ……んぅッ」 「声我慢できそうか。キスしてやろうか?」    すると悠月がぱっと顔を上げたので、問答無用で口を塞いだ。ねっとりと舌を絡めると、ビクビクと後ろが収縮する。   「んん゛ッ! ……う、んぅ……」    足が立たないくせに先をねだるように腰をくねらせ、悠月はたっぷりと極致に至った。    達した後も腰を前後に揺らしてオーガズムを反芻する。足だけでなく、しがみつく腕にも力が入っていない。俺に支えられて立っているのがやっとという状態なのに、肉欲にはとことん忠実なやつだ。   「せん……もっとぉ」 「だめだ。もう出るぞ」    唇を離すと悠月の舌が名残惜しそうに追いかけてくるが、俺はそれを一蹴する。   「早くしねぇと駅着いちまう」 「でもぉ」 「だめなもんはだめ。早く手ぇ洗って」    悠月は不満そうに鼻を鳴らすが、実際時間がないので焦る。次の駅で在来線に乗り換えなくてはならない。

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