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第32話

帰宅するなり、結月はソファに深く座り、天井を仰ぐと大きく息を吐いた。 「どうした?疲れたか、結月」 「うん。穂高先生の家、凄く立派だし、ご両親を前に緊張した....」 「温かいココアでも煎れようか。待っていて、結月」 穂高はリビングを離れ、キッチンから湯気を立てるココアのカップを結月に差し出した。 「ありがとう...穂高先生は?」 「俺はいいよ」 顔を傾け静かにココアを啜る結月を見つめ、穂高はそっと、結月の髪を撫でた。 「そういえば....確認していなかったね」 「....確認?なんの?」 きょとん、と結月がココアを片手に首を傾げる。 「....俺が夫で良かったかな、結月」 その瞬間、結月は思い切りむせた。 「大丈夫か、結月」 「だ、大丈夫...お、夫て....」 「嫌か?」 ほんのり頬を染め、結月は両手で包んだ温かいココアの入ったカップに視線を落とした。 「い、嫌なんかじゃ...た、ただ、実感が沸かなくて」 「好きだよ、結月。結月は?」 穂高の言葉に結月はこれ以上ないくらいに真っ赤になった。 「そ、それは...もちろん...」 「もちろん?」 「す....きです」 消え入りそうな声に穂高が笑みを浮かべる。 「聞こえない」 「ほ、穂高先生が、好きです!」 「良く言えたな」 穂高は結月の前髪をそっと、払うと、おでこに優しいキスをした。 「...今度は結月のご両親に会いに行かないとな」 「....ですよね....大丈夫かな....」 穂高は結月の頬っぺを引っ張った。 「敬語は禁止」 「わ、わかり....わかった」 結月の両親は複雑な様子だ。 結月はαだった為に、いずれはΩと結婚すると思っていたが、我が子が出産する立場になったのだから無理も無かった。 穂高の家系は申し分なく、穂高の家が望むのなら、どちらにせよ、Ωになった結月の家系に拒否する権利はない。 「....ごめんなさい。お父さん、お母さん...」 両親を前に、初めて結月は謝った。

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