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第33話

史哉も史哉で苦悩していた。 穂高の一件を耳にし、史哉は内緒にしていたが、穂高と別れたことが両親にバレたのだ。 「どうして別れたんだ!史哉!」 地位のある家系の穂高と結婚すれば、我が家も安泰だ、と考えていた両親だ。 「うるさいな!僕は父さん達の為に恋愛している訳じゃないんだから、ほっといて!」 「史哉!」 両親の声を振りほどき、部屋に篭った。 穂高の家系の地位を狙って、穂高に近づいたんじゃない。 幼い頃、父の会社の開いたパーティで、まだ幼稚園くらいながら、半ズボンのグレーのスーツ姿に赤いリボンを付けた、小さな男の子が表情もなく、大人たちを眺めていた。 マネキンみたい、が第一印象だった。 話しかけても笑いはしない。 いつしか、穂高を笑わせたい、と史哉は思うようになり、次第にそんな穂高に恋をした。 穂高を笑わせられたのは自分ではなく、結月だったけれど、今は焼きもちもない。 二人の話しを聞いた今、素直に幸せになって欲しいと願っている。 史哉はスマホを取り出し、電話を掛けた。 「おー、どうした、史哉」 聞き慣れた気さくで優しい声に安堵した。 「史哉?」 涙が溢れ、声が出せなかった。 「....まさか、泣いてるのか?史哉」 「な、泣く訳ないじゃん」 必死に涙を手の甲で拭い、笑ってみせた。 「やっぱり泣いてんじゃん」 「なんだよ、拓磨、お前はエスパーかよ」 そう口にするなり、ポロポロ、涙の粒が笑みを浮かべる頬を伝った。 「駆け落ちしない?拓磨」 「駆け落ち?いきなりどうした?なにがあった?」 「....言ってみただけ」 史哉が敢えて笑って言うが、拓磨はしばらく無言になった。 「変なこと言ってごめん、拓磨」 「....今から会えないか?迎えに行く。今、家か?」 「....うん」 そうして電話を切ると、拓磨は史哉の家へ車を走らせた。

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