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第60話
それから、ごく普通に笑ってはいるものの、何処となく、気になってしまっている様子の結月を察知し、史哉と拓磨は秘かに話し合い、穂高にも話した。
結月は男性経験は初めてのヒートと穂高だけ。穂高と史哉が気になるのも仕方はなかった。
ろくな初体験では無かったが、本人はあまり覚えていないのが幸いだったが。
結月を拓磨の家へ招待しようと三人は決めた。
穂高は拓磨の家に行ったことは長い付き合いでもちろんあるが、結月は初めてだ。
拓磨の家へと車を走らせる穂高の隣の助手席で、結月は緊張の面持ちで、膝では拳を握り締めている。
「そんなに緊張するな、結月。拓磨の家は気さくでいい家族だし」
「そ、そうは言っても....あ!」
「どうした?」
「....手土産、忘れた!途中、ケーキ屋さんとかあるかな、和菓子屋でもいい!」
運転する穂高に結月が真剣に詰め寄るのを穂高は笑った。
「そんなもの要らないよ」
そうして、レンガ造りの拓磨の家に到着した。
拓磨を先頭に最後は結月が穂高の背中にくっつくようにして、玄関からリビングへと入る。
「おかえり。史哉くん、拓磨。あら?穂高くんじゃない!久しぶりね!」
「ご無沙汰してます」
拓磨の母の優しく明るい笑顔に穂高は応えた。
ふと、拓磨の母の視線が隣の結月に移る。
「あなたが噂の結月くんね。はじめまして、拓磨がいつもお世話になって」
「あ、いえ、こちらこそ、お世話になってます、は、はじめまして、結月です」
優しい眼差しの拓磨の母と見つめ合い、挨拶をした。
「だいぶ、お腹も大きくなったのね、楽しみね」
「は、はい」
変わらず、緊張している結月がいる。
「そんなに緊張しないで。私、怖い?」
困惑した笑みを浮かべる拓磨の母に、はっ、と、緊張しすぎるのも失礼なんだと気づき、慌てて首を横に振った。
「良かった。ゆっくりしていってね、結月くん。穂高くんも」
「はい。ありがとうございます」
結月の代わりに穂高が応えた。
「おかえりー!拓磨お兄ちゃん!史哉さん!」
美希が二階から降りてくるなり、大きな声を上げ、駆け寄ってきた。
「あれ!?穂高さんだー!久しぶりー!」
物怖じしない美希はクールな穂高でも元気に挨拶する。
「久しぶり、美希ちゃん」
そして、美希の視線が隣の結月へ。
「穂高さんの番さんでしょ!?可愛いね!でも、いずれ、穂高さんや拓磨お兄ちゃんに負けないくらい、イケメンになりそうな雰囲気がある!史哉さんは美人だけど!」
美希にまじまじと見られ、美希のまたその勢いに押され、結月は困惑しながら苦笑した。
「こら、美希。結月は人見知りなんだから、少しは落ち着け」
拓磨が見るに見兼ね、妹の美希を咎めた。
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