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第70話
「お帰りなさいませ。穂高様、結月様」
拓磨の家から帰宅すると執事の有坂が玄関口で深く頭を下げ、穂高は慣れた様子でリビングへと向かう。
穂高は幼い頃からのことで慣れているが、結月は未だに慣れず、
「た、ただいま戻りました、有坂さん」
有坂に結月は頭を下げた。
夕方に、拓磨と史哉から連絡があった。
「予定がないなら明日にしない?ペアリング選び。あともう一箇所、行きたいところあるんだ」
史哉が電話の向こうで微かに笑った。
「行きたいところ?」
「行ってからのお楽しみ」
そうして。
翌日、4人でジュエリーショップに向かったが、テレビなどで見聞きしたことのある高級店の看板を見上げ、結月は気後れした。
「どうした?結月」
穂高に促され、ようやく一歩遅れて、店内に入る。
「わあ!拓磨、見て見て!ダイアモンド!何カラットだろ」
ガラスケースにある大きなダイアモンドの着いた指輪に史哉が目を輝かせる隣、拓磨はその値段を見て冷や汗をかきそうになっている。
「....それが欲しいのか、史哉」
不意に史哉が顔を上げる。
「別に?凄いなって、思っただけ。こんな派手なの着けたくないよ」
あっさり史哉は拓磨に言い、拓磨を安心させたが、相変わらず、小悪魔調は健在だ。
「結月はこれからまだ成長するだろうし、こまめにお直しに来ないとな」
結月はただただ、ガラスケースに並ぶ高額な指輪を眺めた。
「ね!せっかくだし、4人みんなでペアリングにしない?」
史哉が笑顔で提案した。
「いいな、それ。念の為、裏にアルファベットは彫って貰わないとだな」
穂高も気乗りし、4人全員、相手のアルファベットを裏に彫ったシンプルなプラチナの指輪を選んだ。
「よし、じゃ、次は例の場所だね」
穂高は運転し、拓磨たちの車を追う。
『指輪も持ってきてね』
史哉に言われ、結月は有名なロゴの入った袋を胸に抱いた。
着いた先は神社だった。
「まだ秋だってのに」
「冬は冬で、また大晦日に来たらいいじゃん?またみんなで」
史哉は笑顔で先導をきった。
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