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第85話

「あ、そういえば。パパも釣り好きだったよね?お兄ちゃん」 不意に美希は思い出した。 「ああ、そういえば。良く、昔の同級生と釣りに行っては魚釣って来てたっけ。確か、ボートもあったような....」 拓磨は閃いた。 「父が日本に戻ってきたときは、有坂さん、父の釣り仲間になってあげてくださいよ」 その瞬間、有坂はぎょっと目を見開いた。 「と、と、とんでも御座いません、わ、私などがお父様と釣りなど、身分不相応で御座います!」 「釣りに身分は関係ないだろう。それに拓磨の家はうちと違ってアットホームな家庭だし、有坂も安心していい」 穂高の言葉にも、有坂は未だ動揺している。 「さ、左様で御座いましょうか....」 「にしても、パパ、いつ帰って来るんだろ、あ、一度、戻ってきたの、でもたったの二日」 美希は頬を膨らませた後、アップルパイに齧り付いた。 「忙しいんだろう。美希ちゃんはパパっ子なんだな」 穂高がからかうと、 「違うの」 美希は口を尖らせる。 「優磨お兄ちゃんがね、私のいない隙に翔ちゃんを口説いてるらしいの。だから、パパからも注意して貰いたいんだけど....」 優磨は拓磨の兄のバイセクシャルのβだ。 かつては史哉も口説かれていた過去がある。 「翔ちゃん、ノーマルなのに」 ハタチにしては、幼く、おとなしい翔太を穂高は見つめた。 翔太の表情からも困っているのがわかる。 「いいんじゃね?あいつにゲイにして貰えば」 「縁起でもないこと言わないでよ!お兄ちゃん!」 穂高は不意に美希ににっこり微笑みかけた。 「今度、遊びに行かせて貰うね、美希ちゃん」 「はい!是非!」 穂高を恐れる優磨だ。穂高が睨みを効かせれば一発だろう、と、美希は満面の笑顔を見せた。

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