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第84話

「んーっ!甘い!フルーティー!」 おちょこを口にし、日本酒を含んだ史哉が宙を仰ぎ唸る。 「美味いな」 拓磨、穂高もおちょこを傾ける。 「こっちも甘いよー!」 美希はアップルパイを片手に。 「そっちは子供の甘さ、こっちは大人の甘さなの」 兄の拓磨に言われ、 「よくわかんない。ねえ?結月くん」 隣で同じくアップルパイを手にしている結月に美希は同意を求めた。 「え?はい、ですね。でも、早く皆さんと飲めるようにもなりたいです」 「まだまだ先だね、結月。でも楽しみにしてる」 片側に座る史哉が微笑み、結月の持つアップルパイとおちょこで乾杯した。 「ほら、勧めてばかりいないで有坂も」 穂高はとっくりを有坂から取り上げ、代わりにおちょこを手渡した。 「これはまた、ありがとうございます」 有坂はそう言うとおちょこを傾ける。 「故郷、新潟だったんだな、知らなかった」 「ええ、実は日本酒が一番、好きでして」 「てっきりワインかと」 不意に穂高と有坂の会話に拓磨が割り込んだ。 「有坂さんの趣味ってなんですか?」 おちょこを片手に笑顔で尋ねた拓磨に有坂も満面な笑みで、 「釣りとナイター観戦です」 一同、ナイター....? と目を丸くしたが、有坂は、 「あ!海釣りですよ!ここだけの話し、実は最近、ボートを買いまして...勿論、嫁には内緒ですけれど」 口元に手を当て、隠し事のように有坂は笑う。 「ボートか?なんだ、言えば、俺がプレゼントしたのに」 穂高の言葉に、 「いいえ!ここは男の甲斐性ですから、まあ、ローンなんですけどね」 ワッハッハ、と有坂の屈託のない笑顔に穂高は拍子抜けし、穂高を除く全員が、有坂のプライベートを覗いた気がした。 酔って明らかになったが、普段は普通のおじさんなんだな、と。

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