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第89話

月日は過ぎ、冬。 結月にとっては緊張と不安の幕開けでもあった。 「穂高先生のご実家にご挨拶行かないといけないですよね...?」 なにを着ていこう、なにを持っていこう、まだ14歳の結月だ、検討がつかないのは当たり前だろう。 俯きがちに呟く結月に穂高はふんわり微笑んだ。 「結月はなにも心配しなくていい。俺がいる」 結月の小さな頭に手のひらを置いた。 そんな穂高を結月はそっと見上げると、二人の視線が重なった。 そうして結月は頷く。 一生、なにがあろうと結月を守っていく、最初見たときの出会いから、穂高は心に決めていた。 運命の引き合わせだとしても、その気持ちに嘘はない。 ふう、ふう、と緊張を解す為に口を尖らせ、必死に息を整える助手席の結月に穂高は思わず笑った。 「タコの真似か?キスして欲しいのか?ラマーズ法の練習か?」 「違います!」 そうして、また口を尖らせ呼吸を整える結月にキスをした。 唇を離すと結月の呼吸はいつも通りに整った。 「ほ、穂高先生!運転中なのに!」 真っ赤な顔で照れくささから吠える結月にも穂高は笑った。 「心配しなくても赤だよ。隣の車には見られたかもな」 結月の赤らんだ顔が収まる事はない。 「穂高さんのバカ!」 月日を共に過ごすと共にかしこまった口調もかなり和らいだが、この日、初めて、結月は先生と呼ばなかった。 「あ!今、僕....」 「その方がいい。俺はもう校医じゃない、お前の旦那でお腹の中の父親だよ」 ようやく、結月が落ち着いた。 照れくささが頂点に立ち、縮こまったのだ。 着物の方がいいんじゃないか、という結月だったが、出産予定日まで間もなく、お腹も大きい為に、ゆったり目のセーターとデニムのシンプルな服装に穂高はさせた。 結月は白がよく似合う。

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