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第98話

「...穂高のお父さん、なんだか、穂高に似てるね。いざとなると正義感、強くって、優しくて...だから、仲違いしちゃうのかな」 「似た者同士だから、てか...まさか、穂高の父親が毎日、穂高の顔を見に来るとはな」 穂高の父が去り、拓磨と史哉は、ベッドで眠る、穂高を見つめ、しんみりと語った。 「穂高が聞いたら、きっとびっくりするね」 「...聞こえてるよ、きっと。な?穂高」 拓磨は穂高の閉じた瞼に笑顔を向けた。 日増しに、結月は穂高に会えない時間を苦痛に感じ始めた。 「結月、残してるじゃないか。お腹の子の為にも栄養、摂らないと」 普通食になった結月だが、食事を半分近く残した。 「穂高先生は?会いたい」 「時期に会えるよ」 「時期に?時期にっていつ?もう5日経ってる」 言葉が見当たらず、拓磨は言葉を飲んだ。 と、その時、病室のドアが開いた。 穂高かと喜んだのも束の間、史哉だ。 「久しぶり、結月」 「...お久しぶりです、史哉さん」 「これ。懐かしいでしょ」 結月の目の前のテーブルに史哉はラ・フランスの入った袋を置いた。 「剥いてあげるから待ってて」 ようやく現実を受け止めた史哉が笑顔でラ・フランスを剥いていく。 結月は食欲不振だった自分の為に、穂高が史哉からいただいた、ラ・フランスを剥いてくれ、ピックに刺し、食べさせてくれた、あの甘い記憶を思い出していた。 「...穂高先生は、どこ...?」 「...心配しなくても、病院にいるよ」 史哉が一口サイズに切ったラ・フランスをピックに刺し、結月の口元に寄せた。 「多分、甘いよ、食べてみて」 ゆっくり口を開け、ラ・フランスを受け入れた。史哉の言う通り、とてもみずみずしく、甘かった。 「...ほんとだ、甘い...穂高先生にも食べさせたいな」 「...そうだね。あとで届けに行くよ」 泣かない、と決めていたのに、泣きそうになった史哉は思わず、顔を伏せた。 「史哉、悪い、飲み物、買って来てくれないか?ホットのブラック。結月は?」 結月は首を横に振った。 史哉を気遣い、拓磨は史哉を部屋から退室させたが、ドアの向こうで史哉は1人、泣いた。

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