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第99話

不意に目が覚めた。 辺りは暗く、カーテンからの明かりが薄ら漏れているのみだ。 結月はパジャマ姿に点滴を引き摺りながら、約6日ぶりに病室を出た。 どうやら、脚を捻挫しているらしく、脚を若干、引き摺りながら、ゆっくり廊下を歩いていると、廊下のベンチに拓磨と史哉の姿があった。 史哉は泣き疲れ、拓磨の肩に凭れ、眠っている。 拓磨が見上げると、結月の姿に呆然とした。 「ゆ、結月、どうして」 結月はゆっくり、2人の座るベンチの真向かいの部屋を見つめた。 「だ、駄目だ!結月、開けたら...!」 史哉が起き、叫んだ。 脚を引き摺りながら、薄闇の中、ベッドで眠る人物に向かい、ゆっくりゆっくり歩いていく。 穂高は無事だと、拓磨から聞いていた。 穂高な訳がない。 何度もそう、言い聞かせながら...。 人工呼吸器を付け、眠る、穂高の前に立ち尽くしたが、現実味がいつまでも湧かなかった。 「....人違いだよね....穂高先生に似てる」 結月の背後で拓磨と史哉は無言で結月を見守った。 「....嘘だよね、穂高先生。ずっとここで眠っていたの....?」 結月は腰を折り、穂高の長い睫毛を見守り、頬に優しく手のひらを当てた。 不思議と、涙が出なかった。 罪深いと思うのに、感情が欠落してしまったかのように...。 「...穂高。結月だよ。わかる?」 涙に霞む声で、史哉が穂高に声を掛ける。応答は無かった。 ただ、静かに眠り続ける、穂高の姿があった。 「...僕のせいだ....」 「....結月のせいじゃない。結月を守れて、穂高は本望だと思うよ。それに、穂高は死んではない、生きてる」 拓磨の言葉で、ようやく、結月の瞳から涙が零れた。 「...僕のせいなんだ。飛び降りた僕を先生が...」 「...結月に伝えていいか、迷うけど...」 拓磨は結月の母が穂高の病室に来た事を話した。そして、穂高の父に罵声を浴びせられた事も。精神科に入院した事も。 「結月のせいじゃない。僕もさ、好きでΩに生まれた訳じゃないんだ。両親や兄に散々、虐待を受けて育ったよ。Ωだというだけで。結月の変異も、結月が望んだ訳じゃない。運命だよ、穂高と出会う為の」 結月は涙ながらに唇を噛み締めた。

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