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第101話

それから数日後。 結月はとても元気な、というより、元気が良すぎる男の子を出産した。 よく大泣きし、よく笑う。 我が子の出産、対面に、結月もようやく、笑顔を取り戻した。 病室に響き渡る、結月が名付けた、我が子の名前。 咲夜。 穂高の前世の頃の名前だ。 当時、咲夜はΩ、自分はαだったが、生まれつき、体が弱く、年下の咲夜が嫌な顔を1つせず、体調の悪いときは粥を食べさせ、着替えさせ、看病に当たった。 当時の自分、和樹はまだ10代の咲夜を置き、死んだ。 後を追うように、咲夜は自殺で命を絶った。 夢の中で咲夜とは会った事はある。 穂高と違い、眼差しは似ているものの、何処かさめていて、あまり笑わない。 絶え間ない笑顔を注ぐのは和樹のみだった。 だが、桜に見惚れる咲夜に一目惚れし、絵描きだった和樹は桜を見上げるその姿を絵に収めたいと懇願したが、出会った当初の咲夜は愛想もなく、心を開くまでにかなりの時間を要した。 咲夜が和樹にようやく心を開くきっかけになったのは雨の日までに足繁く桜に足を運ぶ咲夜に会いたいが為に、和樹も毎日、桜に足を運んだが、冷たくあしらわれた。 諦めた矢先、持病でその場で膝を折り、慌てて咲夜は和樹に駆け寄り、一人暮らしの自宅へと運んだ事から、2人の距離は急速に縮まったのだ。 「ああ、お腹すいちゃったのかしら、ちょっと待ってねー、咲夜くん」 あやしていた看護師が咲夜の口元に哺乳瓶を当てるなり、慌てた様子で目を開け、頬を膨らませながら、無我夢中でミルクを飲んでいる。 哺乳瓶はあっという間に空っぽになり、けぷ、と可愛らしいゲップをした。 「よく飲むなあ、赤ん坊の間にデブになるぞ」 拓磨が茶化して言うと、咲夜がギロリ、と睨みつけ、拓磨は口が開いた。 「に、睨まれた、睨まれたんだけど」 「な訳ないじゃない、そう見えただけでしょ。ね?咲夜くん」 史哉が撫でると、きゃきゃ、と愛らしく笑う姿がある。 「いや、絶対、睨まれたと思うんだけどなあ...」 「史哉さんももうすぐですよね?出産」 「うん。怖かったけど、結月の出産、見て、安心したー。ちょっと楽しみになった」 史哉がふわりと笑う。 「目元は穂高かな?鼻と口は結月?」 つんつん、と史哉が咲夜の小さな鼻を人差し指で小さく突くと、咲夜が小さな手を挙げ、史哉の指を掴み、笑った。

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