102 / 116
第102話
「ねえ、拓磨」
「ん?どうした、史哉」
拓磨の自室で史哉が切り出した。
「神社、行かない?」
「神社?」
拓磨が振り返る。
「うん。神頼み、て訳じゃないし、初詣も過ぎちゃったけど。穂高のこと、祈りたいんだ」
拓磨は真顔になり、前を見て、暫し考えた。
「...そうだな。やる事はやっておきたいかも...結月も誘うか」
静かに史哉は頷いた。
「結月が望むなら」
そうして、結月を誘い、以前、穂高も共にした、神社へ車を走らせた。
互いの左の薬指にあるペアリングを交換した場所だ。
「...懐かしい」
「だね」
結月はフードの付いたダウンジャケットにデニム、ニットキャップを被せた咲夜を抱き、境内を歩く。
その後ろを、結月を見守るように、黒のロングコートの史哉と黒とグレーのジャケットの拓磨が、それぞれ、ポケットに手を入れ、歩いた。
拝殿に立つと、結月は咲夜を抱いたまま、しっかりと目を開き、暫し、祀られている仏像を眺めた。
咲夜は親指を銜えたまま、じっとおとなしく結月に抱かれ、結月の瞳を見つめている。
「...結月。咲夜を抱いたまま、参拝は難しいだろう?預かってようか?」
史哉の背後からの声に、うん、と結月は咲夜を差し出したが、
「お前だって、身重だろうが。俺が預かる」
拓磨が咲夜を抱き、そのやり取りに結月は微笑んだ。
前を向いた結月は手のひらを合わせて瞼を閉じ、静かに穂高が早く目覚めてくれる事を願った。
そして、背後の史哉も結月の後ろで手を合わせていた。
結月の為にも、一刻も早く、穂高が目を覚ましますように、と。
「うー、まだまだ冷えるね。何処か、喫茶店でも入ろうか」
「ううん。穂高先生のところに行きたい」
「穂高のところに、て、病院?」
「うん。まだ、咲夜を合わせていないから」
「...そっか」
すると、史哉は自分の首に巻いていた、タータンチェックのマフラーをふわり、結月の首に巻いた。
「...ありがとう」
結月の笑顔に、史哉も笑顔を返した。
ともだちにシェアしよう!