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第116話
五年の歳月が過ぎた。
「結月パパ、お庭のお花、少し貰ってもいいですか?」
庭を取り囲む花々を指差し、和樹が尋ねた。
「いいけど、お花をどうするの?」
「ブレスレット作るの」
「ブレスレットかあ、いいよ、咲夜と選んでおいで」
「行こっ、和樹」
「うん!」
1つ下の和樹の手を握り、咲夜が率先して歩き出す。
2人がこの花がいいかな?こっちもいいかな?と仲良くしゃがみ、花々を指差している姿を、縁側で結月は微笑ましく見守った。
咲夜は5歳、和樹は4歳になった。
結月と穂高は咲夜の他に、4歳の長女、美桜、3歳の次男、耀太、3人の子宝に恵まれた。
今日は史哉と拓磨も遊びに来ており、史哉たちも長女のすみれを連れてきている。
史哉に至っては妊娠中でもある。
美桜とすみれがお人形遊びする中、史哉が、
「こっちのピンク色のお洋服のがいいんじゃない?」
「んー、んー、ピンクがいいかなあ、どう思う?すみれちゃん」
「私もピンクがいいと思うなあ」
穂高に至っては耀太は本が好きな為、膝に耀太を置き、絵本ではなく、耀太の好きな海の生きもの、の図鑑の読み聞かせ。
絵本も好きではあるが。
「ねえ、穂高パパ、このお魚、きれい」
「綺麗だね、いつか見に行こうか」
「うん!行く!」
穂高の膝の上で脚を伸ばし、背中を預け、すっかりリラックスしている、結月によく似た耀太がにっこり笑う。
長女の美桜はどちらかというと、穂高に似て、将来、可愛い、というより、美人になるだろうと思わせる、穂高譲りの少し切れ長な大きな瞳を持つ。
すみれもまた、史哉に似て、色が白く、色素も薄く、お人形さんみたい、と良く言われる可愛らしい子だ。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
「あ、美希かな?」
有坂と軽く昼飲みしていた拓磨が立ち上がる。
「ケーキ焼いてきたよー」
子供達が一斉に、きゃー!と声を上げた。子供達の喜びように、美希の後ろに立つ美希の旦那の翔太が微笑んだ。
拓磨の兄、優磨は無事、ようやく見つけた、5つ上の姉さん女房にこき使われながらも、自身の美容室を開き、幸せな日々を送っている。
ダイニングで隣り合わせ、ケーキを頬張る、咲夜と和樹。
2人はもう、前世の記憶は無くなったが、仲良しだ。
「ほら、和樹、ほっぺたにクリーム付いてるよ」
史哉が指差し、示唆する。
「え、どこ、どこ?」
「ここ!」
咲夜が指で掬い、舐めとると、和樹が俯き、真っ赤になる。
並んで座る、結月と穂高は思わず微笑んだ。
「ん?桜、咲いてね?」
縁側に移動していた拓磨がふと桜の木にまだ数える程ではあるが、僅かな桜の開花に気がついた。
「えっ、桜!?」
皆が一斉に駆け寄る中、穂高はまだ小さな耀太を抱えている。
「どこー?穂高パパ」
「ん」
肩車をし、指差して見せた。
「幾つかはまだ蕾だけど、楽しみだねえ」
史哉も身を乗り出し、桜に釘付けだ。
結月も優しい瞳で懐かしい桜の木を思い起こしながら眺めた。
「桜だって!和樹」
「うん!可愛いね」
仲良く手を取り合い、桜の下に駆け出す、咲夜と和樹は桜の下でも互いにつま先立ちし、
「まんかいになったらね、すっごく綺麗なんだよ、きょねん見た!」
「へえ、見てみたいな」
桜の花に見蕩れたまま興奮し早口になっている咲夜とそんな咲夜の横顔を見つめ微笑む和樹がいる。
桜の花がまた2人を新たな物語へと繋げ、見守っている。
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