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第115話
「子供、産まれたんだよ。咲夜って名付けた」
「...知ってる。だいぶ、やんちゃみたいだな、かなり頬を叩くから、ぶん殴りたかったけど、目は開かない、体は動かないし」
「...知ってたんだ」
「見えないだけで、触られたらわかっていたし、耳も聞こえていたよ」
「...そうか、そうだったんだね」
人工呼吸器も外され、頭の怪我も、穂高が眠っている間、治療していた為にほぼ、完治していた。
残るは右肩と左足の骨折のみだ。
穂高の両親が病室を訪れた。
「良かった、穂高」
母は穂高に抱き着いた。
「心配かけてごめん、母さん。毎日、見舞い、来てくれて、ありがとう、父さん」
ただ、立ち尽くしていた穂高の父が目を丸くした。
「...当然のことだ。後は結月くん、頼んだよ」
「はい、お義父さん」
結月に穂高の父が微笑み、両親は病室を後にした。
続いて、和樹を抱いた史哉、咲夜を抱いた拓磨が病室を訪れた。
史哉に至っては泣いていた。
「穂高あ...」
「泣くな、ブスになる」
「ブスになってもいい」
穂高は咲夜を見つめた。咲夜もまた、穂高を見つめている。
「...ようやく会えたな」
咲夜の小さな指を握った。
「幸せになるんだぞ」
「幸せにする、じゃないのか?穂高」
拓磨に茶化され、思わず、笑った。
「確かにそうだな。幸せになろうな。お互いに」
前世の自分との初めての再会、とても感慨深かった。
結月の前世、和樹が病死し、途方に暮れた。
結月には黙っていたし、結月も夢で咲夜に会った際にそれとなく勘づいたが、穂高に敢えて話しはしなかったが、穂高は覚えていた。
和樹の死後。暫くし、手当り次第に男と寝る日々。
交際を申し込まれる事もあったが、和樹がこの世を去って以降、誰とも付き合う事もなく、行為が終われば、さっさと身支度をし、帰宅した。
虚しく、孤独な日々の中、当時、18だったが20歳にこの世を去る決意をしていた。
和樹と出逢った満開の桜の木。
また出逢えたら、と願いながら、その桜の木で自害した。
和樹は史哉の子供だとしても、咲夜共々、今世では見守っていきたい。幸せであって欲しい。
「和樹も大きくなれよ」
史哉は抱いた和樹を穂高に寄せ、穂高が頭を撫でた。和樹はふんわり、優しい笑顔を浮かべた。
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