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さよならのあとのふたり 1

そうして始まった、元・生徒会長の瀧篠楓(たきしの かえで)と会計の香島菖樹(かしま しょうじゅ)の交際。 4月から大学へ進学した楓とまだ高校生の菖樹のお付き合いは『純』同性交遊そのもの。 大学生と予備校通いの高校3年生では、スケジュールがなかなか合わなくて当たり前だった。 しかも、楓はとある企業の一人息子であるため、大学生活の傍ら、父親に付いて社長見習いとして家業の手伝いもこなしていた。 毎日会いたいところだが、平日の夜や土日に時々デート。 もっと時々、楓の一人暮らしのマンションでおうちデート。 その時だけ、手を繋いだり、キスをしたり、人目を気にせず普通の恋人らしいひと時を楽しんだ。 何よりも菖樹を大切にする楓である、もちろん、お泊りはナシ。 「ちゃんと好きになる」、「好きになっていく」。 とは言え。 本当のことを言えば、一日でも早く、菖樹と体を繋ぎたかった。 体も心も奥の奥まで暴いて、メチャクチャにして、清廉な恋人が快楽に堕ちていく姿を見たいという欲望はひしひしと理性を蝕む。 しょっちゅう夢に見る、キスを交わせばもっとその先を求めて押し倒したくなる。 でも。 怖がらせてはいけない、焦って彼の気持ちを置いてけぼりにするなんて以ての外。 あの日、途轍もなく大きな不安を飲み込んで、全てを委ねて恋を打ち明けてくれたのだから。 一歩進んで、三歩下がるくらいでいい。 独りよがりなセックスで菖樹を失うくらいなら、こんな忍耐の連続、なんてことない、と楓はそちらを選んだ。 だから、次の4月に菖樹が大学に進学しても、2人の交際の清さは変わらなかった。 「先輩」という呼び方を卒業して「楓さん」と呼ぶのがようやく慣れてきたくらいのスローペース。 高校生のあの頃と変わらない速度で…と言うのは、ちょっと、いや、大きめに嘘。 菖樹が楓のマンションから3駅のアパートに引っ越してきたのである。 一緒に過ごす夜の時間が増えれば、恋人同士は、それなりに。 少しずつキスが濃厚になって、ゆっくり、ゆっくり、その先にも。 菖樹に困惑がなかったワケではない。 でも。 キスの途中で初めてお互いの舌先が触れ合った時、自らを背筋を駆け上がったのは抵抗感ではなく、稲妻のような愉悦だった。 信じられなかった。 自分の中に楓の肉体を求める欲情が存在することに。 「ちゃんと好きになる」と、そばにいて、横顔に見惚れて、尊敬して、付き合えること自体が奇跡と、それだけで満足していたのに。 あっという間に溺れてしまう。 キスなんかじゃ足りない、足りない、足りない、もっともっと新しい快楽を、知らない楓さんを教えて。 楓さんが欲しい、心が、体が叫ぶ。 菖樹は慌てて、必死に、その叫びを隠した。 嫌われたくなかった、いやらしくはしたない感情で彼を見ているなんて、自分にひどく幻滅した。 またあの頃のように秘密にしなければ。 けれど、菖樹を溺愛する楓には、そんなことは素肌を通してすでにすっかりバレていて。 2人の想いが同じ熱量だと確信したある夜、楓が告げる。 『菖樹が二十歳になったら、俺は菖樹を抱くよ』 告げられて、鼓膜が揺れて、カッと頬が熱くなったのは思わず生々しく思い浮かべてしまったせい。 怖くなんてなかったし、ワガママな言い方をすれば待たされてすぎていたし。 はい、と俯きがちに答えた菖樹の声が震えていたのは、うれしくてうれしくて仕方がなかったせい。 やがて迎えた、交際3年目の冬、菖樹の二十歳の誕生日。 楓は言葉通り、菖樹を抱いた。

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