1 / 6
第1話
高1になってまだ間もない、春の穏やかな朝。
雪翔(ゆきと)は変わらず、いつもの満員電車に揺られ、登校していた。
「....?」
不意に、ブレザー越しの尻に固いなにかがぶつかった。ふと見ると会社員らしい鞄だった。
満員なんだし、単にぶつかっただけだろう、と人混みの中で高校近くの駅に着くのを待った。
しばらくすると、鞄がグイグイ、尻に押し付けられる。
すると、鞄に隠すかのように雪翔は尻を鷲掴みにされ、全身の毛穴が開き、飛び上がりそうになった。
しつこく尻を揉みしだく手を払おうにも、おしくらまんじゅう状態で身動きが取れない。
歯を食いしばり耐えていると、股間にまで手が伸びてきて、雪翔は瞼を必死に閉じた。
「なにしてんだよ、おっさん」
なんとか首を捻ると、50代くらいのスーツ姿のリーマンの手首を若い、20代だろう、同じくスーツ姿の男性が掴んでいた。
「警察行くか?」
そのとき、列車のドアが開き、雪翔を痴漢していたらしい50代の男性が逃げ出した。
追いかけようとする、助けてくれた20代のリーマンの手首を雪翔は握り、遮ると、注目の的になってしまっていた2人も降りた。
「悪いな、痴漢野郎、逃がしてしまって」
「いえ、助けてくれてありがとうございます」
互いに軽く自己紹介をし、雪翔は今度、お礼させてください、と雅紀と名乗る青年に申し出た。
170センチのごく平凡な高校生、雪翔と、175センチ、同じ列車で通勤している社会人一年目の21歳、雅紀との出会いだった。
ともだちにシェアしよう!