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第1話

高1になってまだ間もない、春の穏やかな朝。 雪翔(ゆきと)は変わらず、いつもの満員電車に揺られ、登校していた。 「....?」 不意に、ブレザー越しの尻に固いなにかがぶつかった。ふと見ると会社員らしい鞄だった。 満員なんだし、単にぶつかっただけだろう、と人混みの中で高校近くの駅に着くのを待った。 しばらくすると、鞄がグイグイ、尻に押し付けられる。 すると、鞄に隠すかのように雪翔は尻を鷲掴みにされ、全身の毛穴が開き、飛び上がりそうになった。 しつこく尻を揉みしだく手を払おうにも、おしくらまんじゅう状態で身動きが取れない。 歯を食いしばり耐えていると、股間にまで手が伸びてきて、雪翔は瞼を必死に閉じた。 「なにしてんだよ、おっさん」 なんとか首を捻ると、50代くらいのスーツ姿のリーマンの手首を若い、20代だろう、同じくスーツ姿の男性が掴んでいた。 「警察行くか?」 そのとき、列車のドアが開き、雪翔を痴漢していたらしい50代の男性が逃げ出した。 追いかけようとする、助けてくれた20代のリーマンの手首を雪翔は握り、遮ると、注目の的になってしまっていた2人も降りた。 「悪いな、痴漢野郎、逃がしてしまって」 「いえ、助けてくれてありがとうございます」 互いに軽く自己紹介をし、雪翔は今度、お礼させてください、と雅紀と名乗る青年に申し出た。 170センチのごく平凡な高校生、雪翔と、175センチ、同じ列車で通勤している社会人一年目の21歳、雅紀との出会いだった。

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