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ぼろぼろに擦り切れた布に包まれていたのは、小さな赤子だった。 人里離れた山深く――この地を護る犬神らへの贄として、恐らくこの赤子は差し出されたのだろう。 ふぇぇ、とか弱い泣き声がするが身動ぎもせずぐったりとしている。 「父様(ととさま)、それってエサ?」 「違う。これは喰らうてはならぬぞ」 父の腕に抱きついたままで、好奇心旺盛な息子のヤトが赤子に顔を近付けてすんすんとその匂いを嗅ぐ。 「獣の匂いじゃない!」 「当たり前だろう、これは人間の赤子だ。我らと違って獣ではない」 そっと布を捲り、赤子の顔を見る。 まだ目も開かぬ赤子は小さな唇をはくはくと動かして呼吸し、そしてたまにか細く泣く。 衣服も身に付けていない色白の身体を眺めていて、思わず『む』と変な声が出た。 赤子の下半身には男子(おのこ)の証が付いているのに、その少し下には女子のホトらしき小さな穴が開いている。 「これは…両性具有というやつか」 話には聞いたことがあるが、実際に見たのは初めてであった。恐らく、この奇異な身体のせいで棄てられたのかもしれない。 「父様、コレどうするの?」 ヤトが興味深げに瞳を煌めかせながら尋ねてくる。その問いかけに暫し口を噤んだ後で、彼――オラガは重い口を開いた。 「この赤子には何の罪もない。我らの手で育てるしかあるまい。今より、お前の弟となるのだ」 「弟…!俺の弟!」 この地を護る当代の犬神の一声に、ヤトが明るい歓声を上げる。 そのまま勢いあまって空転を二回ほどすると、父親の腕に抱かれた赤子の元へと満面の笑顔で走り寄る。そうして、ふやんと柔らかな赤子の頬に彼はそっと頬擦りをした。

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