45 / 142
第45話「気の遣い方」
「ひろっ」
鷹夜は驚いてばかりで先程から開いた口が塞がらない。
芽依は笑いながらリビングに鷹夜を通し、ソファに座るように促した。
玄関を上がって廊下の右側にキッチンがあり、そのままリビングと繋がっている。
テレビと4人掛け程のソファの間にはローテーブルが置かれていて、窓の方を向いたまま左側を確認すると奥の壁は本棚で埋められていた。
「本、すごいね」
「ん?あー、うん。俺バカだから、文字だけは読めるようにしようと思っていっぱい買ってんの」
「あはは、何それ」
「俺バカだから」と言うフレーズに少し違和感を持ちながら、鷹夜はローテーブルに買ってきた物が詰まった袋を置き、後ろから来た芽依を振り返る。
洗面所の場所を聞いて手を洗うと、そう言えばスーツだったなあ、と鏡に映る自分を見つめた。
(ノリで来たけど迷惑じゃなかったかな、、まあでも、迷惑なら最初から自分の家なんて提案しねーか。もういいや。寛ごう)
勝手にそう決めて洗面所を後にした。
「飲も!」
鷹夜に続いて手を洗い終えた芽依はさっさと買って来た惣菜をテーブルの上に並べ、箸を配ってテレビを付ける。
ソファでなく床に敷いてあるラグに座ると、鷹夜を隣に呼んだ。
「ん」
「あ、てかスーツじゃん。俺のスウェット貸すよ」
「え、いいよいいよ、大丈夫」
遠慮する彼の話を聞かず、芽依はリビングの奥の本棚の手前にある引き戸をガラリと開き、寝室に入って行ってしまった。
(泊まる訳じゃないし、、)
悪いな、と思って立ち上がり、芽依が消えて行った寝室のドアの前まで近づく。
中を覗くのも悪いかと手前で止まっていると、スウェットのズボンとTシャツを持った芽依がヒョイと出てきた。
「ほい」
「ごめんね、ありがとう」
「全然いいよ。鷹夜くん明日予定ある?もう泊まってけば?俺全然大丈夫だよ」
「ちょっと待て。あのさ、距離の詰め方エグくない?おっさんドキドキしちゃうんだけど」
「そんな歳変わらないってば。んんん、ごめん、別に何かしようとか急いでる訳でもないんだけど、鷹夜くんといると変に落ち着くし、うち何回か来てるよね?みたいな気がしてさあ」
鷹夜の親しみやすさと彼の周りの安堵感が心地よく、芽依は頬を赤らめてそう言った。
少し照れている。
「もうずっと友達だった感じすると言うか」
確かに出会ってから会話が止まらない。
鷹夜自身もほぼ初対面の芽依の前で自然体の自分でいられているのは感じていた。
ソリが合うと言うか。
「んー、、じゃあいいか。帰んのめんどいし、泊めて」
「やった〜!夜通しゲームやる?」
「やんねーよ。30超えると徹夜できないのさては知らないな?」
「え!?できないの!?やば!!」
ギャハハ、と笑い出した芽依の手から衣類を受け取り、鷹夜はシュル、とネクタイを外す。
ついでに貸してもらったハンガーに着ていたものを綺麗に掛けて窓の手前のカーテンレールに干すと、芽依が「これ良い匂いだよ」と消臭芳香剤をプシュプシュとかけてくれる。
「あ、同じやつ」
「うそマジ!?これ良い匂いだよね〜」
確かに、男性ものの中でも控えめで軽い匂いだ。
「靴下脱げば?」
「足臭いから無理」
「ふはっ、わかるわかる。夏はヤバいよね。風呂場使っていいよ。靴下は俺の服と一緒に洗ったげる」
「何から何まで申し訳ない」
「スーパーの会計多めに払ったっしょ?見てたかんね。そのお返しです」
バレていたか、と鷹夜は口を尖らせた。
2人は風呂場に向かい、手前の洗面所兼脱衣所にある洗濯機に鷹夜の靴下と洗剤を放り込んでボタンを押し、回し始める。
(風呂も広い)
高そうなボディソープを借りて足を洗うのは気が引けたが、革靴の中で蒸れたそれをそのままにもしておけず、スウェットのズボンをたくし上げながら足を洗った。
「じゃあ改めて、かんぱーい!」
リビングに戻るとしばらくして、飲み会が始まった。
ともだちにシェアしよう!