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第47話「真夜中の鑑賞会」
「芽依見ろッ!ここ!この顔!!」
「鷹夜くんもういい〜〜!!別の意味でツラい〜!!」
2人だけの大宴会は騒がしく、芽依は先程まで開けていた窓を閉じて冷房を入れた。
《俺がアイツのこと?好きになるわけねーだろ、あんなブス》
「だよなー!!!芽依に比べたら他皆んなブスでーす!!」
「やめろや!!」
バンザイした腕を掴み、下に降ろさせる。
3本目のサワーを飲み始めた辺りから様子がおかしくなってきたと思ってはいたが、鷹夜のその豹変に芽依は泣く泣く付き合わされていた。
見始めたドラマはもう2話目になっていて、主要な登場人物が全員揃ったところだ。
ヒロイン・マリアを取り合う2人の王子は対極的で、タスクとユウの祐と言う字が同じだったところから、1話の終わり頃までマリアが2人を1人の人間だと思ったりと勘違いが進む。
3人で居合わせた事により、タスクとユウが違う人間で、最初に自分が暴漢に襲われたとき助けてくれたのがどちらかなのだと再認識する。
そして最後まで、あのとき助けてくれたのはどっちだったのかをストーリーの主軸に置きながら、彼らが通う学園の仲間達を巻き込み話が進んでいくのだ。
《俺はお前のことなんかどうとも思ってねえ!でもな、、お前が傷付くのを見逃せるかって言うと、そう言う事じゃねえんだよ》
「ギャーーーッ!!」
「倒れんな!!」
19歳の自分の初々しく少しぎこちない演技を見せられているだけでも死にそうに恥ずかしいと言うのに、鷹夜は芽依がいわゆる名言、神台詞を言うたびに胸を撃たれた!と言うポーズをしながら心臓のあたりを両手で押さえて後ろのソファに倒れ込んでいる。
完全に酔っ払いだった。
「いい、、俺も女だったらこんなこと言われたい。芽依くん、今俺にコレ言って」
「言わねえよ!!馬鹿にしてんのか!!」
芽依はじっくりジェンの演技を見る気でいたのだが、そんな暇がなくなる程、鷹夜に騒がれてしまっている。
「馬鹿にしてねーよお、だってカッコいいじゃん竹内メイ。えっちだし」
鷹夜はソファにもたれながらテレビ画面にドアップで映った芽依の微笑みを指さした。
「何がえっちなの!?」
「顔、声、仕草、動き、視線の流し方、全部」
「え、」
「ホラここも!見ろ!マリアちゃんの手をこう、ほら、サラ〜って撫でながら持ってきて自分のほっぺ触らせた!!これえっちだからな!?」
「はあ!?」
そんなに細かく自分の演技を見られた事も褒められた事もなかった芽依は、思わず素っ頓狂に声を荒げる。
それは完全に照れ隠しで、本当はもっと聞きたくなっていた。
(鷹夜くん本当に心臓に良くない。すごい恥ずかしいけどめっちゃ嬉しい、どうしよう)
素人のくせに、と思うところかもしれないが、芽依は鷹夜の褒めちぎりが気に入ってしまった。
ほろ酔い気分で上機嫌に目についたいいところを全部、本人である芽依に自慢するように教えてくれる彼が眩しい。
(鷹夜くんて、本当に普通の人なんだなあ)
偉ぶって「こうした方がいい」と言ってくる歳上の役者とも違い、親切心でアドバイスを並べてくる大御所とも違う。
ただ普通に感想を言っている。
良い!とだけ言ってくる。
《マリアさん、大丈夫?》
「うわ、芽依くん見て、ヤバい、芽依くんの敵が来た。恋敵が」
「俺んじゃないけど、、ジェン、若いなあ」
いつの間にか、芽依はジェンを普通に見つめていた。
ずっと隣にいてくれたのに、突然に消えた相棒を。
テレビに映っているドラマのときは芽依が金髪、ジェンは黒髪で、原作の漫画のキャラを忠実に再現していた。
(やっぱ格好いいなあ)
演技力も高く、爽やかな好青年。
見た目の儚さが人気を呼び、病弱な役をやることが多かった。
このユウと言うキャラクターも重い病気にかかっていると言う設定で、イメージがぴったりジェンに合っていた。
ただ、当の本人は一度もインフルエンザにすらかかったことがなく、10歳以降は風邪も引いたことがない怪力持ちのタフガイだ。
(両手にりんご持って割るもんな、あいつ)
「芽依くんヤバい」
「今度はなに」
もはやふざけているのだろう。
鷹夜は隣に座ってソファに背を預けている芽依のTシャツの袖に縋り、テレビ画面を見ながらスン、と泣き真似をして鼻をすすった。
「俺、浮気しそう」
「あ"?」
流石に低い声が出た。
《俺はマリアさんに悲しい顔して欲しくない。泣いて欲しくない。何でだろう、、君を目の前にすると、そう、、思ってしまう。笑っていて欲しいって》
「、、、、」
「俺もあれ言われたい」
「はあ!?ガチで浮気じゃねーか!!」
いつの間にか鷹夜が段々とジェンが演じているユウに心惹かれ始めていた。
「何で!?こいつの何処がいいの!?病弱だよ、風に飛ばされそうじゃん!髪長すぎるし!」
よく分からない嫉妬心が芽生えた芽依は、鷹夜の肩を掴んで激しく揺する。
「えーだって王子様じゃん、完全に王子。迎えに来て欲しい。うわー、見てよ手の甲にキスしたよ、えー、やだ格好いいよ〜〜」
「待ってよ鷹夜くん落ち着いて?冷静に見て?絶対俺の方が格好いいから。俺じゃないわ、えーと、タスクの方が!!3話目とかマジでタスクのターンだよ、見所いっぱい!!」
2話目のメインはジェンの方のキャラクターだ。
手の甲へのキスもするし、足を怪我したヒロインをお姫様抱っこして保健室まで連れて行くシーンが見ものなのだ。
だが次の話、第3話では打って変わって芽依が演じるタスクがメインの話しになる。
お姫様だっこはおんぶでやり返し、手の甲へのキスは寝てるヒロインの口元を手で覆い、その自分の手の甲へキスをすると言う、当時話題を呼んだ名シーンが入ってくる。
「うわ、え、本当だ、やば、竹内メイえっろ」
3話目のタスクのシーンを見て、鷹夜は口をあんぐりと開けた。
本当は唇を奪いたい。けれど、ある理由があってどうしてもそうする訳にはいかない。
そんな難しい感情を表現する為、散々ジェンと相談して決めたシーンだったのを覚えている。
「だろ〜〜?」
芽依は鼻を高くしてそう言った。
《お前の唇、、俺が奪っていいわけねえよな》
画面の中の芽依は金色の長い前髪をサラリと垂らしながら、苦しそうに自分の手の甲から口を離してそう呟く。
ヒロインはベッドで眠ったままだ。
「ッかーー!!何でそんなこと言う?マリアちゃん完全にタスクに心奪われ始めてるじゃん!!」
「それがねー、タスクも結構大変なんだよ〜。ただただ不良やってるわけじゃねーのよ」
「あ、ネタバレいらん。やめろ」
「ええ、、」
ソファに置かれていたクッションを顔に投げつけられ、芽依はすれすれでそれを手でキャッチした。
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